固定観念を捨て、ワクワクするコミュニティから未来の夢を語ろう

河合 祐子氏|日本銀行 欧州統括役

「TECH BEAT Shizuoka(テックビート)」開催に当たり、静岡県出身で、現在は世界を舞台に活躍する河合 祐子氏(日本銀行 欧州統括役)より応援メッセージをいただきました。

私は今ロンドンで仕事をしています。こちらに来る前に、金融テクノロジーいわゆるフィンテックの仕事をしていたこともあり、こちらでも情報技術を利用した社会の変革に注目しています。

私は静岡の出身で高校までを静岡で過ごし、大学から外に出ました。就職するとき英語もしゃべれないのに国際的な仕事に憧れアメリカの会社の東京支店に入社したのですが、当時は、情報といえば、新聞などのメディアやテレビから一方向で受け取るものであり、自分がどこにいるかによって受け取る情報の内容にも大きな差がありました。今は、ネットを通じて世界中どこでもほぼ同じ情報を取ることができ、さらに画期的なことには、個人でも情報を発信する双方向フローになっています。スマートフォンと言う多機能の小型コンピュータを個人が持ち歩くようになった今、物やサービスの提供は、オンデマンドかつ顧客需要に合わせてカスタマイズするのが当たり前のことになっています。

こういう時代ですから、かつてのように先進国大都市にいなければエキサイティングな仕事に出会いにくい、世界ともつながれないと言うことではありません。情報技術が今最も人々の生活を変えているのは中国だと思いますが、スマートフォンの指紋認証1つで100種類以上のサービスにアクセスができるという便利な社会になった今、サービスやものづくりの革命で10億人を超える人口をさらに高みに引き上げようと考えるスタートアップが無数にいます。

地方公共団体のブースが目立ったVIVA TECH 2019

今私がいる欧州は日本と同じく、伝統の息づく社会ですが、その中でも革命的な進化を目指す企業、地域、国があります。小さな規模から始めて大きな成果を狙う例もたくさんあり、例えば毎年パリで開かれる先進技術の博覧会VIVA TECH 2019年版では、きらびやかな大企業パビリオンに混じって、フランスの地方公共団体の展示が目立ちました。国家頼みではなく、自分たちの課題と強みを一番よく知っている自分たちが、外からの知恵を入れて発展していこうと言う意気込みです。フランスといえば、年若い大統領の改革に反対するデモやストのニュースばかりが目立つような気がしますが、先を見据えた取り組みは着々と進められており、VIVA TECHは毎年規模が拡大し、今年は世界中から1万社を超えるスタートアップが集まったそうです。大企業や自治体などが、スタートアップの知恵や技術を1つでも多く取り込もうという商談が会場のそこかしこで行われるのですが、スタートアップの売り込みの工夫や努力にも並々ならぬ迫力が感じられます。フランス国家は、博覧会という場の設定こそサポートしますが、そこから後の展開は、参加者がどれだけ頑張るかにかかっているという点が強く印象に残るイベントです。

欧州とその隣国で起きている成功・飛躍の事例

欧州には大小様々な国があり、例えばルクセンブルグは人口わずか60万人と静岡市よりも小さな規模ですが、国民あたりの平均経済規模(GDP)は欧州屈指、日本の約3倍にもなります。金融を中核産業として、海外から人材や知見を集め、海外にサービスを提供していく戦略が成功しており、中央銀行では職員の約半分が外国籍だとのことでした。国としても、今成功しているからといってずっと勝ち続けられると考えているわけではなく、常に最先端では何が起きているのか、自分達が先行して顧客を惹きつけるためには何が必要なのかを考えています。私はこの国に行くたびに、大臣からスタートアップまで様々な人から日本や他国のフィンテックについて質問攻めにあい、彼らからも次々と新しいアイデアを聞かされています。

他にも色々な例があります。電子国家エストニアの隣にある人口300万人、ほぼ静岡県と同じ規模の小国リトアニアでは、分野を絞ったスタートアップ企業の誘致に成功し、電子決済の分野で名を上げてきました。軍事技術の民間転用が認められているイスラエルでは、その高い技術力を活かして新しいアイデアが次々と産まれており、毎年1,000社と言われる起業の生存率は1 〜2割と低いながら、成功した会社群では複数のユニコーンを輩出するダイナミックな展開です。モロッコには、最後の人口フロンティアであるアフリカ大陸へのアクセスを狙って、欧州から多数の企業が進出しています。そのアフリカは、固定電話も銀行網も発達してない段階から、いきなり携帯電話を使った国内送金が発展し、持たざる社会が中間段階を飛ばしていきなり便利になるリープフロッグ(蛙のようなジャンプ)が期待されています。

共通項が見いだせる成功の方程式とは?

アメリカやアジアに比べ、人口の増加も緩やかで長い歴史が発展を邪魔することもありそうな欧州で、これだけたくさんの事例に出会ったのは正直驚きでした。成功の方程式は1つではありませんが、いくつかの共通項があるように思えます。

まず、ユーザー目線から始めていること。技術や地理ありきではなく、需要は何なのか、利用者の苦痛は何なのかをまず考えています。個別の課題に取り組むだけでなく大きな背景から考え総合的に問題を解決しようとするいわゆるデザインシンキングで進める先も多いです。

ふたつめは、外の力を使うこと。全てを自社・自国で開発することのメリットは十分にありますが、第三者の見方や技術を取り入れることで、開発の期間は短くなり、失敗した場合にも傷が浅くてすみます。最初から全体を設計するウォーターフォールではなく、段階ごとに区切って進めるアジャイル型の開発も定着しています。

いずれも、言うのは簡単ですが実際に取り組むのは大変です。こうした開発を進めるにあたってはまずは社員の意識改革が必要だ、特に経営者層の考え方を変えるのに苦労したと言う話もよく聞きます。また多額のお金を使ったからといって成功している事例ばかりではありません。大企業とスタートアップとのコラボはカルチャーや考え方の違いスピード感の違いもあってうまくいかないことも多く、失敗話には事欠きません。

TECH BEAT Shizuokaから世界を目指すコミュニティを

それでも多くの人たちが未来に目を向けています。こうした未来の夢を語る取り組みがアメリカでもアジアでもなく、欧州で起きているのを見ると、日本でも同じようなことができるはずだ!とちょうど考えていたところに、今回の「TECH BEAT Shizuoka」のお話をうかがいました。私が故郷静岡に持っているイメージは、「保守的」。でも考えてみれば、ハードウェアを中心に最先端技術を持つ会社が数多くあるのです。欧州のあちこちで起きていることは、日本の地方でも必ず起きます。すべての地方が成功するというわけにはいかないでしょう。固定観念を捨て、地理や心理の垣根を取り払って、ワクワクする世界をめざすコミュニティが生まれることを期待しています。

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