来たれ、領域を越えた展開を望むスタートアップ

鈴木 健一郎氏|鈴与株式会社 代表取締役社長

210余年の歴史を持つ、日本を代表する物流会社である鈴与。物流、商流、食品、航空からサッカークラブ・清水エスパルスなどのスポーツ・エンターテイメントまで、国内外あわせて140余社の関連企業を抱えるグループとして総合力を発揮している。「聖域なきデジタル化」を掲げ、業務改革を急ピッチで進めている鈴与の代表取締役 鈴木 健一郎氏に話を伺った。

プロセス全体をデジタル化、そのポジティブなインパクト

──貴社は「聖域なきデジタル化」を掲げ、デジタル化を推し進めているとお聞きしました。

当社は物流業界の例に漏れず、昨年まで多くの業務プロセスが紙を介して進められていました。今年から「聖域なきデジタル化」を掲げ、あらゆる業務プロセスをデジタルに移行しています。直近では、紙を介して行っていた稟議書の決裁をデジタル化しました。まずは業務プロセスを「見える化」するところからスタートし、アナログな部分を一掃していきたいと考えています。
物流センターで使用するピッキング指示や格納指示など、ほんの一部の物流プロセスで使う帳票でさえ、年間1,500万枚にも及びます。仮に1枚に1円お金がかかっているとしたら、年に1,500万円削減可能性があることになります。加えてデジタル化を行う過程で、紙にかかっていたコストの経費削減だけでなく、生産性向上にもつながります。大きなインパクトのある業務改革なので、積極的に投資していきたいと考えております。

──デジタル化を進めるためには、社員の働き方やマインドなども変えていく必要がありますよね。

そうですね。しかし、ここまで進めたいくつかのデジタル化導入結果から、プロセス全体をデジタル化することによって必ず業務が効率化出来ることがわかっています。投資回収は数カ月です。ポジティブなインパクトがありますので、スピードを上げて進めていきたいですね。
私たちのように本社が地方にある会社は、東京に本社がある会社との人材獲得競争は厳しい立場にあります。だからこそ、デジタル化によって圧倒的な生産性を先んじて手に入れる必要があります。 もちろんグループ全体で考えれば膨大な業務プロセスがありますし、完全なデジタル化を実現するには相当な時間がかかるでしょう。大切なのは、各自の現場がどれだけ自律的に進めてくれるように促すかだと思います。デジタル化を推進していくことに適性があり、やる気のある人はどの現場にもいます。そうした人を後押ししていきたいです。

──具体的にはどのようにして後押しすることをお考えでしょうか。

育成がもちろん必要ですが、現時点では社外の力をお借りするのが大切だと思っています。そういう意味で、スタートアップを含む外部のパートナーの方々と協業させていただくのは意義があります。いかにロジックが正しくても、これまでの成功体験や経験に縛られて腑に落ちない部分というのは出てきます。外部からの視点で「井の中の蛙」にならないようにすることが重要です。

「鈴与と組みたい」と強く思うスタートアップに出会いたい

──スタートアップとの取り組みについて教えてください。

当社としてスタートアップとの取り組みは3〜4年前からスタートしていますが、いくつかのスタートアップとは実際にプロジェクトを進めてもいます。
スタートアップの方との協業はもちろんすぐに結果が出るものではないと理解しています。私たちが難易度の高い課題を掲げていることも自覚しているので、そのニーズに見合うところと出会うのは難しいと理解しながらも進めています。そのなかで、このパートナーであれば前に進めそうという方々も見えてきました。とは言え、やってみないとわからないということも正直多いです。

── いままでの経験から鈴与様として協業しやすいスタートアップ像を教えていただけますか?

そうですね、当社の課題解決に向けてスタートアップ企業が持っている技術をどのように生かせるか、具体的なシナリオを提案いただける企業がとてもありがたいです。そのためには自社の技術による明確なソリューションを持っていることや、自社の技術を生かすことのできるターゲットが明確になっていることも大事だと考えています。

── 鈴与様が既にスタートアップと協業の経験があることは「TECH BEAT Shizuoka」参加スタートアップにとってもチャンスがあると受け取ることもできとても嬉しいです。それでは具体的にどのようなテクノロジーが現在必要なのかも教えていただけますか?

「聖域なきデジタル化」を掲げているとは先程申しましたが、そのために必要なテクノロジーが先ず重要と考えています。例えばペーパーレス化を進めるための技術としてOCR技術だけでなく、自然言語処理による精度の高いテキスト化ができる技術も必要になります。また、データ構造化時間の削減技術や複数のアルゴリズムで自動学習を行うAIソリューションなども必要と考えています。

── スタートアップに期待することも教えてください。

個々のスタートアップとスタートアップ業界全体への要望があるのですが、まず個別のスタートアップに関してはターゲットとなる企業との出会いの機会を増やすためにも、PoCを気軽に行える仕組みを構築していただければと考えております。PoCが高額のためせっかくスタートアップ企業が持つ素晴らしい技術を生かせないシーンが当社だけではなく起きていると考えます。またスタートアップ業界全体に対してですが、私たちが掲げているような難易度の高い、また広範囲にわたるニーズに対して、個々のスタートアップ企業が持つ技術は高度であるもののカバーできる領域が狭いことも多く、そもそもニーズに見合う企業との出会いが難しい状況の中で、複数のスタートアップ企業の技術を自ら結びつけ課題解決を図るということは、なかなか難しいというのが現状だと思います。業界として複数のスターアップ企業が連携して広範囲のソリューションを提案できるような仕組みがあると非常に便利だと考えます。

──今後、スタートアップと協業することによって、目指すことを教えてください。

繰り返しになりますが、まずは100%のデジタル化です。並行して、テクノロジーの活用をより進めていきたいですね。今までは、スタートアップの取り組みを当社で応用できるかという観点を重視して投資してきましたが、これからは当社の課題を解決できるスタートアップと協業していきたいです。そのために必要なのは、当社の課題が明確になっていて、解決への目処がつくということ。今までも模索してきましたが、より力を入れていきたいです。

私たちの物流サービスにテクノロジー面で付加価値をつけることも視野に入れています。例えばデータ活用やデジタルマーケティングの領域です。この新しい分野で、スタートアップの知見を得たいと思っています・当社の物流システムを利用してくださるお客様に、デジタルマーケティングの観点でアドバイスを行うことで、売上の向上や在庫適正管理につながれば、機能としての倉庫と物流以上の価値を付与できるはずです。
私たちのお客様には通販や小売のお客様が多くいらっしゃいますが、これまでは物流の観点からアドバイスをさせていただいていたり、店舗運営負担の軽減のお手伝いをしたりということを行ってきました。それに加えてデジタルマーケティングの観点を加えたアドバイスができるようになったら、さらなる強みになるはずです。物流を受託するだけではなく、ソリューションを提供できる会社として、お客様に貢献できるようになりたいと考えています。

また、鈴与として、スタートアップに選ばれる企業でありたいと思います。有能なスタートアップは様々なところから声がかかりますよね。重要なのは「鈴与とやりたい」と言ってくれるスタートアップとガッツリ手を組んでやりたいと思っています。

──貴社と組むことによって、スタートアップが得られるメリットにはどういうものがあるとお考えでしょうか。

当社には幅広い領域があるということです。これだけ幅広い領域のビジネスをしている会社はなかなかないと思います。加えて、トップダウンでスピード感を持って進められることも利点ではないでしょうか。特に領域は絞らず、今私たちが取り組んでいるビジネスの範疇、あるいはその延長であれば話を聞くことができます。はじめは物流かも知れませんが、他領域、他業界への水平展開を考えている、可能性を秘めたスタートアップであれば組むに資する。ぜひ当社のリソースを活用していただきたいですね。

インタビュアー:西村真里子(HEART CATCH)

編集・構成:細越一平(Story Design house)

Back to top button
Close