創業100年を超える新聞店が求める「テック」と「アイデア」

江崎 亮介氏|株式会社江崎新聞店 取締役社長室長 

新聞販売や劇場運営など、地元・静岡に深く根づいたカルチャー事業を展開

——貴社の事業についてご紹介いただけますか。

江﨑グループは江﨑新聞店、静活株式会社、静岡オリコミ、静岡ソクバイの4社から成り立っています。1909年に初代が江﨑新聞店を創業し、現在は静岡市内の約7万世帯に新聞を届けています。単一資本による独立した業態での新聞販売店としては、東日本で最も配達数が多いといわれています。

——新聞販売が主な事業なのですね。グループ会社ではどのような事業をなさっているのでしょうか。

1919年に創業した静活株式会社は、新聞の拡販に活用されていた劇場チケットをヒントに、自社でも劇場を運営することを目的に立ち上げた会社です。創業と同時に作られた劇場は「キネマ館」として親しまれており、2018年にはそのキネマ館の外観デザインを再現した商業・住宅の施設「EZAKI SOZOSYA キネマ館」を開館しました。静岡オリコミは1980年にスタートした会社で、新聞に入れる折込チラシに関する事業を担っています。

——貴社の強みはどのような点にあるとお考えですか?

何といっても新聞店は「強固な顧客接点」があるのが強みです。実際にお客様の家をまわって接点をつくっていますので、例えば町内会レベルで地域に入り込んでいくこともできます。お客様とつながりを持ち、それを維持していくという場として、当社のような「新聞販売店」は非常に強いと感じていますね。また、静活株式会社では映画を観に来た年間およそ100万人のお客様のデータをとっています。ユニークユーザー数としても20~30万人が来ている計算。こうしたデータを元に興味・関心を分析できます。

例えば、映画が始まる前のCM。多くの場合は何秒単位で売る「枠買い」というシステムですが、これらのデータを活用すれば「流したいCMのターゲット層」と「映画のターゲット層」を合致させ、「動員数に応じての支払い」に変えることもできるので、より費用対効果の高いCMを提案することが可能なのです。

——面白い取り組みですね! そうした柔軟な姿勢は貴社の企業風土と関わりがあるのでしょうか?

中小企業というのは、とにかくスピードが大事だと考えています。「思ったことは試す」というスタンスです。入社研修などを通じて社員の行動指針 を示しており、社員 全員で「 私たちならこうするよね」という共通指針を共有しています。社内調整 や説得 作業にかかる時間や労力をカットできています。

求めているのは、地元に根ざした顧客データを活かせるアイデア

——現在、御社が課題に感じていることはどういったことでしょうか。それをふまえて、どんなスタートアップとの出会いを期待していますか?

社内に高いITリテラシーがないことと、そうした知識のある人材がいないことを課題に感じています。例えばプログラミングができるとか、効果的なマーケティングのための細かな分析や要件定義ができる人がいたらと思うことがありますね。……ですので、どうすれば今あるデータをもっと全社で活かせるのか、そのソリューションを持っている会社と組みたいと思っています。テック系やメーカーだけでなく、何かしらアイデアを持っている会社と出会えたら嬉しいですね。

——これまでにグループ会社以外の 他社との 協業事例などはありますか?

静岡県に展開している「天神屋」さんというお弁当業者と組んで、夕飯の宅配事業をスタートしました。当社が関わっているのは企画・ブランディングと戸別 の宅配です。商品やサービス名の考案だけでなく、チラシを活用したシニア層に向けてのサービス展開をおこなっています。その効果もあってか、サービス開始からの2カ月間でお弁当の受注数も増えています。私自身、前職ではマーケティング部門 にいましたので、サービスを考えたりプランニングを担当したり、というのも個人的に好きなんですよね。

デジタルでは得にくい独自の顧客接点にチャンスがある

——新聞店としての顧客接点はシニアが多いかと見受けますが、ほかの年代も視野には入れていらっしゃるのでしょうか?

たしかに当社はシニア層へのリーチに強いですが、本音を言えばさらに幅を広げていきたいという思いはあります。とはいえ、一方で、この顧客接点は当社の大きな強みでもあると考えています。スタートアップの会社はWebから発信したり、Webありきで事業をスタートしたりされることが多いと思うのですが、地方に展開するとWebだけではどうしてもリーチが足りません。デジタル広告の仕組みはどうしてもグローバル視点で展開していくので、地方は切り捨てられてしまいがちです。ターゲティング広告などを例にとっても、静岡市内をターゲティングしているのに浜松市で広告が表示されてしまうなど、難しい点も多い。オフラインでどのようにお客様と接点を作っていくかを考えると、チラシやポスティング、さらにイベント開催などに行きつくわけです。

——江﨑さんご自身としては、地元にはどのようなポテンシャルがあると感じていらっしゃいますか?

以前、企業再建のプロフェッショナ ルである冨山和彦さんの講演に出席した際に「地方では、グローバルレベルで戦う必要はない」ということをうかがいました。スポーツに置き換えて考えてみるとわかりやすいかも知れません。グローバルの舞台はオリンピックのようなもので、ごく一部の人しか生き残ることができませんが、地方の県大会ならオリンピックのメダリストでなくても活躍できる。これはビジネスでも同じで、地方でなら一番を狙える余地は十分にあるのです。また、東京のトレンドやムーブメントが数年遅れて地方にやってくることが多いですが、そのときに既に東京から知識を得ていればすぐに対応できますよね。東京で得たものを地方に持ち込む流れができれば、もっと成長できるのではと思っています。

——新しいサービスを提案する際にもお客様のニーズや関心をしっかりつかんでいるという貴社の強みは大きいですし、アイデアを組み合わせることでさらに面白いサービスが生まれそうですね!ありがとうございました。

インタビュアー:西村真里子(HEART CATCH)

文:細越一平(Story Design house)

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