発想の限界を越えたスタートアップとの出会いをイノベーションに

佐藤 誠悟氏|スター精密株式会社 特機事業部 営業部 部長

1950年創業。精密部品・工作機械事業において高度な技術で成長を続けてきた

━━貴社の事業についてご紹介ください。

当社の事業は大きく分けて3つあります。まず、ネジや時計の部品といった精密部品を製造する精密部品事業。続いて、それらの部品を製造するための工作機械を外部のお客様へ販売する工作機械事業、そして3つめがレシートプリンターの製造・販売を行う特機事業と呼ばれるものです。当社の創業は1950年という戦後の混乱期。「人手が少なくてもできる」「輸送コストが低い」「多額の材料費を必要としない」という観点から精密部品の製造を事業として始めました。

━━3つの事業の売上比率はどのようになっていますか?

最も比率が大きいのは工作機械事業で、650億円強の当社の売上のうち70%以上を占めています。工作機械事業は1958年からスタートした事業でしたが、現在では当社の主軸事業となっていますね。2番目に多いのは、1970年代から進出した特機、いわゆるレシートプリンターの事業で、130億円ほどです。そして、精密部品事業の売上が50億円弱です。

━━貴社は事業をグローバルに展開されているのも印象的です。

生産の80%は大連や上海、深センといった中国やマレーシア、タイの工場で行っています。事業戦略として「グローバルニッチ」を方針に掲げ、大手のメーカーさんが手を出さないような1,000億円程度のニッチ市場でトップシェアを獲るという戦略をとっています。売上の85%は海外です。お客様はアメリカやヨーロッパ、アジアなど。世界各国でスター精密の製品を使っていただいています。

自社製品を活用したサービス強化に取り組み、スタートアップとの協業も経験

━━現在、貴社として特に課題に感じていることはどのようなことですか?

例えば工作機械の需要は頭打ちとも言われていますが、当社の工作機械は非常に微細な加工を必要とする5G通信機器や電子タバコなど、今後も成長を見込める市場で採用されているので、当面は堅調に推移すると考えています。また、精密部品事業については弊社が創業当時から磨いてきたコア技術があります。実際に秘伝の手加工の技術を受け継いで…という類で、例えば「0.3mmの世界一小さいネジ」。他社には真似できないクオリティかと思います。

一方で、課題を感じているのは、特機事業です。ペーパーレス化が進むにつれてレシートやプリンターの需要は減り続けます。5年、10年経ったときに「レシート」はなくなっているかもしれません。また、プリンター事業ではハードにおけるコア技術がなく、部品を揃えれば一定のクオリティのものが作れます。特に中国メーカーの追い上げが激しく、その市場シェアも増えてきており、脅威に感じることもあります。

━━ペーパーレスの波に、アジア諸国との競合。そこに危機を感じていらっしゃるんですね。これまでに行われた施策などをおうかがいしてもよろしいでしょうか。

ハード面での差別化は難しいと判断し、それではサービスなどのソフトウェアの機能で私たちにしかできないものをつくろうと注力してきました。2014年には米国シリコンバレーの「Plug and Play Tech Center」にオフィスを作って、海外スタートアップの技術も取り込みながら、レシートに付随するクラウド事業にチャレンジしたんです。例えばレシートプリンターのリモート保守のように、離れたところから店舗のプリンターを管理したり、ソフトウェアのアップデートができたりするようなシステムを作りました。さらにクラウドに接続したプリンターでレシートのデータを収集して、データビジネスに応用できるという構想もあったのですが、マネタイズが難しかった。ある程度のニーズはあり、プリンターそのものを買っていただく助けにはなりましたが、それ自体にお金を払ってでも利用したいと思っていただけるほどのサービスを提供できるには至っていません。

世界700万台の顧客基盤×自由な発想から生まれる可能性に期待

━━課題を詳細に教えていただいてありがとうございます。「TECH BEAT Shizuoka(テックビート)」は静岡県内企業とスタートアップのマッチングによって、課題の解決と新しいビジネスのイノベーションが生まれる場所になってほしいと願っています。当日は数多くのスタートアップが静岡を訪れますが、どんなスタートアップとの出会いに期待されていますか?

当社が過去5年間挑戦してきたソフトウェアへの取り組みが難しかったのは、私たちが自社製品である「プリンターを使った何か新しいこと」にこだわりすぎていたのが原因であったと考えています。ですから今回はそういった発想の限界を捨てて、プリンターと全く関係のないご提案も聞いてみたいと思っています。

━━うまくマッチできそうな分野や、活かしたい貴社の強みはありますか?

強みはやはり「グローバルな顧客基盤があること」ですね。当社の製品は、中小企業や個人店の経営者などを中心に、世界中でおよそ700万台が稼働しています。例えばアメリカの小さな酒店だったり、ヨーロッパの美容院だったり、アジアの青果店だったり…バラエティに富んだ販売チャネルがあるので、そこを活かすスタートアップの技術と組み合わせられたら理想的ですね。

また、ハード系のスタートアップであれば、当社は70年の実績があるので、品質管理のノウハウやコストダウン、量産化などさまざまな面からアドバイスできると思っています。

━━ハードウェアスタートアップであれば、メンター的なお付き合いにも期待できそうですね! スタートアップとの協業事例などはありますか?

先ほどお話ししたシリコンバレーでのチャレンジもそうですが、日本でも当社にないノウハウ部分で、サーバー構築のセキュリティ部分を外部委託した事例などがあります。

スタートアップや、いわゆるIT系の企業との取引や協業はこれまでも進めてきました。プリンターを例に取ると、プリンターとお客様、いわゆるユーザーの間には、POSシステムを作る会社が必要です。例えばキャッシュレス決済サービスのSquareさんとは、当社のプリンターとSquareさんのシステムを組み合わせて、レジ業務のためのパッケージ商品として取り扱ってもらっています。他にもそういったIT関連会社の方とはお取引や、情報交換を頻繁に行っていますので、事業部によって多少の風土の違いはありますが、IT業界のビジネススタイルにも慣れているといえるでしょう。

静岡県内の伝統的な企業とスタートアップの協業から全く新しい世界への一歩を

━━日本のスタートアップに勢いをもって活動してもらって、どんな世界になってほしいと感じていらっしゃいますか?

これからは中小企業の時代だと感じています。いわゆる日本の大企業がなぜ大きな成長を遂げたかというと、「みんなが同じものを欲しがったから」だと思うのです。しかし、人々のニーズ、価値観はどんどん多様化しています。そうなると、中小企業の柔軟性やスピード感は強みになるはずです。

ただ一方で、まだまだ日本の中小企業はパワーが足りない部分があるのも事実。特に地方の企業ではそれが顕著であると痛感していて、地方が元気にならないと、日本は元気にならないと日々感じています。

スター精密は静岡で創業して、静岡の地で70年育まれてきました。まずは当社が地方の中小企業のロールモデルになりたいと思っています。ですがそこは自社だけでできる部分ではなくて、新しい人たちとの協業のなかで実現できることも多いはずです。静岡県内の伝統的な企業とスタートアップが組むことで、全く新しいことができたら、すごく良い日本、ひいては世界になるのではないでしょうか。今回の「TECH BEAT Shizuoka」での出会いには、その第一歩として大きな期待を寄せています。

インタビュアー:西村真里子 (HEART CATCH)

構成/編集:細越一平 (Story Design house)

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