スタートアップとの出会いから双方向の気づきを獲得したい

三上 高弘氏|東芝機械株式会社 代表取締役社長 最高執行責任者 社長執行役員

「総合力」を活かし、多様化するニーズを掴む「価値創造メーカー」へ

——はじめに、御社の事業内容をご紹介ください。

当社は、創業の工作機械はもとより、各種成形機や超精密加工機などの開発、製造を行っているメーカーです。成形機には、精密部品から大物部品まで多岐に渡るプラスチック成形を行う射出成形機と、主にアルミニウムの鋳造を行うダイカストマシン、液晶パネルや太陽電池、リチウムイオン電池向けの高精度・高機能シート・フィルムを製造する押出成形機とがあります。超精密加工機では、スマートフォンや一眼レフカメラのレンズや金型加工、いわゆる光学の領域から、ディスプレイや半導体などの先進分野におけるナノ製造プロセスを実現しています。それ以外にもロボティクス、電子制御装置など、非常に多岐に渡る領域に携わっています。

──ダイカスト(鋳造技術)では、国内No.1というシェアを誇っていますよね。

ダイカストマシン、射出成形機、工作機械は成熟期に入っています。半年前まで、私たちは自身のことを「総合機械メーカー」と表現していましたが、それだと「いろいろな機械を作っている」という印象にとどまってしまう。私たちの想いとしては、機械メーカーとして「総合力」を活かせるメーカーになりたいと考えています。そこで、今年提示した中期経営計画のなかにも「総合力」という表現を組み入れました。

──今提供している機械にソリューションやサービスを付けていくということでしょうか。

そうですね。これまでは、漠然とした問い合わせに対して個々の機械を提案するというビジネスでした。しかし、お客様のニーズが多様化し続け、一個一個の製品だけではお客様への価値提供が難しい時代に突入しています。
私たちの保有している設備と、今までに獲得してきた技術や知見を総動員し、お客様の多様化しているニーズを掴み、システムとして総合的に応えられる機械メーカーになるべく方向転換し新たなスタートラインに立つ準備が整いました。

──2020年には社名を変更する予定とうかがいました。

当社は約80年前にスタートして、歴史の中で「やれないと感じさせない『突破力』」を持っていました。80年もの間会社を続けてこられたのは、機械メーカーとして市場やお客様のニーズに応え続けてきた証しです。「できない」とは決して考えない、どうしたらできるのか、という発想、このDNAを未来にもつないでいきたいと考えています。
当社は、2020年4月に「芝浦機械株式会社」という社名に変わります。カタカナでも横文字でもなく、名は体を表すという意味で「機械」を入れました。社名変更にはふたつ、想いが込められています。ひとつは先人の想い。できないと考えず、お客様の要望に応えうる高精度な品質を求めながら、総合力を活かせる機械メーカーになろうという当社の姿勢を表しています。そしてもうひとつは「お客様目線で自分たちの仕事の価値を判断しよう」ということ。お客様と一緒に価値を創造できる「価値共創メーカー」になりたい、という想いを込めているのです。

IoT+mパートナー会とソリューションフェアのもたらす気づき

──デジタル化への取り組みについて教えてください。

IoTなどデジタル化の分野では、正直に申し上げれば私たちが持っている技術はこれから、というのが現状です。当社の得意な分野は、機械を作り、活用することでした。デジタル化を進めていこうとすると、データをどう分析して活用するのか、という部分が必要になります。
そこで、私たちは「IoT+mパートナー会」というものを昨年7月に設立しました。当社のIoTなどデジタル化を推進するのにご協力いただける企業、約30社に集まっていただいたのです。
変化の時代ですから、自前の技術だけでは進みきれない部分が当然あります。それを外部のパートナー企業と取り組むことで互いの技術や知見を活用し、お客様に価値を提供していきましょうという取り組みです。
これだけの激変期にあって、私が重要であると考えている要素はスピード感です。これまで、私たちは開発製造している機械の規模上、スピード感は二の次にしていたのですが、それではいけない。非常にスピードが求められる現在こそ、パートナー会の力が必要となるでしょう。

──「TECH BEAT Shizuoka」に期待することを教えていただけますか?

私が「TECH BEAT Shizuoka」に期待していることは、お互いの「気づき」です。
私たち機械メーカー側が気づいてないことを、スタートアップの皆さんとの出会いから気づかせてもらえたらと思っています。同時に、スタートアップの皆さんに私たちから気づきを提供できることももちろんあるでしょう。
当社は毎年5月に「ソリューションフェア」というイベントを開催しています。今年で17回を数えましたが、3日間で8,000名のお客様がここ沼津に足を運んでいただいていて、そのほとんどがリピーターです。当社の技術の展示と、幅広い分野の最新情報を提供する場として開催していますが、海外から来場される方も含めて、何がしかの気づきや事業に対するネタを得ていただけていると感じています。
今の日常の仕事にちょっとブレーキをかけてでも、1日沼津まで行ってみようと訪れる方々を見ていると、実は当社が感じている以上の気づき・価値を、お客様は感じていらっしゃるのかも知れません。8,000名という数はその現れと考えています。

──一過性のイベントではなく、継続的な動きを志向している「TECH BEAT Shizuoka」にとって、非常に参考になります。沢山の気づきが得られる時間を生み出したいです。

ものづくりの知見をスタートアップに開放する

──スタートアップにはどのようなことを期待していますか?

やはりIT分野での技術や知見でしょうか。
当社では昨年の4月にITに対する重要性の認識から、IT推進部を立ち上げました。これからこの分野を強化していく必要を強く感じています。そのためには人材の育成が必要ですが、先程申し上げたスピード感や時間軸で考えると、まずは外部の力をお借りするのが先決と考えています。
今回の「TECH BEAT Shizuoka」では、当社の人間がスタートアップの方々と沢山お話をする機会があると思いますが、すぐにそれが、例えば協業の、1対1の答えにならなくて良いと思っています。ある意味では気づきですよね。ものの見方や取り組み方への気づきを、まず獲得したい。
そしてその会話の中で、この部分はすぐには私たちが注力できないので、スタートアップの方からお力をお借りする、あるいはビジネスという形で手を結びましょう、という事が起こってくるのではないでしょうか。

──そういったスタートアップとの取り組みが実現できればと思います。

東芝機械の企業文化は閉鎖的ではありません。IoT+mパートナー会を設立していることにも見て取れるかと思います。自前主義でやろうとは思っていませんね。

──スタートアップ側からすると、例えばハードウェアのプロトタイピングで、日本国内には相談できそうなところが無いと思ってしまい、深センに流れてしまうということが実際に起きています。まさか東芝機械様のような企業が自分たちの話を聞いてくれるとは思わないので、深センのほうが受け入れてくれるかも知れないと、そういうトレンドが生まれてしまっています。リスクも当然高いわけです。日本国内で、更に本当に素晴らしいノウハウがある大先輩の企業の方が、実はお話を聞いてくれるということは、スタートアップに取っては本当に素晴らしいことだと思います。

私たちはものづくりの企業です。ものづくりを行う上での重要ポイントや、必要な機械や技術をスタートアップの皆さんに先輩としてお伝えできると思います。私たちは隠すことはありません。それがスタートアップの方々にとってみると、案外メリットになるかもしれません。
私たちの持っている経験からものづくりへのアプローチ方法も提案できると思っています。「ここはいくらやったって壁が高すぎるから、遠回りかもしれないけど壁の低いところから回ってトライしたほうがいいかもしれませんよ」と言ったような、知見に基づいた実現可能性のお話もできるでしょう。ぜひ会話する機会を沢山持ちたいですね。

「機械遺産」に認定されたマスターウォームホイール。最大累計ピッチ誤差1,000分の4mmという、世界一の精度は、現在に至るまでも破られていない。

インタビュアー:西村真里子(Heart Catch)

編集・構成:細越一平(Story Design house)

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