オープンイノベーションから得た視点

杉山 武靖氏|静岡ガス株式会社 執行役員 くらし事業本部 くらしデザイン部長

2025年、地域No.1ソリューション企業グループを目指して

——貴社の事業内容を教えてください。

静岡の地で109年、主に都市ガス事業を展開しています。グループ会社の中にはリフォームや保険、クレジットといった事業もあり、最近ではIoTを使ったお客さまの見守りサービス、駐車場のシェアリングサービスなど、ガス事業以外の「くらし」に関わる新しいサービスの創出に力を入れています。

——幅広いサービスを展開されているのですね。

今までは、ご承知の通りガス管で、例えるなら地面の中に全てを投資するような会社でしたが、最近はちょっと地上に出てきました。2025年までに地域No.1ソリューション企業グループになろうというビジョンを掲げて、一丸となって動いています。
地域のお客さまにご満足いただける企業になるには、ガスをお届けするだけでは足りません。多様なサービスを取り揃えて、その役割を果たしていこうと考えています。 そのベースとして、エネリアというガス器具の修理や取り付けをする部隊を強化しまして、『ふれあい巡回』というものを行っています。一軒一軒、お客さまに何かお困りごとはありませんかとご要望を伺い、それに応えていこうというサービスですね。リフォームであったり、ご高齢の方のおうちを訪問して見守りをしたりとか。最近では、集めてきたお困りごとからニーズをくみ上げ、ご高齢の方向けスマホ教室も始めました。

——個々のお客さまというと何万軒くらいのご家庭に伺っているのでしょうか。

静岡ガスでは都市ガスで約30万軒のお客さまにご利用いただいています。県内の4つの地域にエネリアという子会社があり、その社員たちが1年間に1回は各ご家庭に伺っています。ご家庭ごとにエネリアの担当者がついて、どんなお困りごとにもお応えできるような関係を目指しています。

30万軒とのお付き合い、その質をITで高めたい

—— 今取り組んでいる事業において、ITを活用できると思われる部分はありますか?

『ふれあい巡回』は直接お伺いする「面対」方式にこだわっています。お客さまとは様々なコミュニケーションの方法がありますが、静岡ガスでは面対なくしてはお客さまに選ばれることはないと考えています。コストや効率性では問題がありますが、なんらかの形で面対の形は残したいのです。
一方で、面対の良さと、現在進行形であるデジタルの良さを融和させるビジネス展開も考えています。例えば、『ふれあい巡回』において、担当者が気付けない部分をITやデジタルで補って、より価値のあるコミュニケーションに引き上げてくれるような考え方です。

—— 興味深いです。そのためのデータの蓄積は既にされていらっしゃいますか?

『ふれあい巡回』を行う中で得た、約10年分のお客さまのニーズや要望をデータベース化しています。「こういうお客さまにはこういった傾向がある」とか「こういうものに魅力を感じていただけるのではないか」ということをデータから解析することができるようになりました。

また、昨年、KDDIさんと提携し「エネリアつながるIoT」というサービスを展開しています。高齢者の方々の見守りなどにご利用いただきたいという目的で、お客さまにセンサーやカメラなどのデバイスを提供しています。高齢のお客さまにはまだあまり受け入れられてはいないのが現状ですが、機械が見守る一方で静岡ガスは面対のリソースを持っていますので、例えばご家族の方から一報を受けて、スタッフがお伺いすることもできますから、その点は強みにしていきたいですね。警備会社ほどではないですが、ライトな感じでお客さまを見守ることができると思います。そんなサービスを展開していきたいと思っています。

新たな価値の創造を目指して

——オープンイノベーションとして、いま取り組まれていることについて教えてください

2016年からスタートアップといろいろやってみようということで挑戦しています。ただ、私の印象ですと、当時の静岡ガスは正直に申し上げて「石橋を叩いても渡らないくらい硬い会社」でした(笑)。スタートアップという言葉自体もなじみがなかったですし、社内では「一緒にやって大丈夫なのか?」という意見があったのも事実です。その時に現在の社長の岸田から「静岡ガスに足りないものを持っている企業や人たちと組んで、静岡ガスの中からは絶対に出てこないものに取り組もう」という後押しがあったのです。

—— 2016年というと、比較的早い時期から挑戦されていたのですね。

そうですね。やはりスタートアップの方々とは仕事の取り組み方や進め方も大きく異なりますので、最初は驚くことも多かったのですが、多くの刺激を受けましたし、勉強させてもらいました。

—— 今回、静岡鉄道さんが創業100周年のタイミングに、3社共同で「しずおか未来共創プログラム Starting XI(スターティングイレブン)」を開催されるわけですね。

当社だけではリソースが限られていると感じたのが共催の理由です。事業内容が多岐に渡る鉄道会社やテレビ局という、僕らとは全く違うお客さまとつながっている企業と協力し、スタートアップの方々の力も借りれば、今までにない新しいサービスや商品が出てくるのではないかという想いで始めました。スタートアップの皆さんから見ても、相対する企業が1社よりも3社のほうが魅力を感じていただけるのではないでしょうか。

—— 2016年からスタートアップと取り組みをされていて、その意味や価値、または課題を感じてらっしゃると思います。これから静岡県内企業がスタートアップと協業するときのポイントとなる観点はありますか?

月並みですが、スタートアップとお仕事をするメリットは、自分たちの持っていない要素を吸収でき、スタートアップの技術や知見を基に新しい価値を作っていくことができるというところですね。改善点についても考えています。スタートアップとの協業は、様々な違いから労力がかかります。私たちもスタートアップとの取り組みに慣れていませんからね。
例えばスタートアップと協業するための新規事業の専属部門を作ることが、その解決策になるかもしれません。役員を配置して、権限もを付与し、意思決定もを迅速に行う。スタートアップのスピード感はとにかく早いですから。結果、より良い成果を生み出せるかもしれません。

—— 先日フランスのビジネススクールの方と会話していて、スタートアップと取り組む際には専属のチームが必要だという話がちょうど出たのです。例えばChief Entrepreneur Officerという形で、スタートアップ専用のコミュニケーションをする組織ですね。今杉山様がお話されたのは、まさしくそのことですね。

スタートアップに望むのは「地域の人たちに寄り添える心」

—— 静岡にどのようなスタートアップもしくは人材が来てくれたら望ましいとお考えですか。

『ふれあい巡回』で一軒一軒お客さまにお会いしていると、確実に高齢化が、それも非常に速いスピードで進行しているのを実感します。すると、どういう事が起きるかと言うと、いくらデジタル化が進んでもそれを享受するお客さまの地点でいうとまだまだ浸透していないのです。
一例をあげると、少し前に静岡ガスでポイントサービスを始めたのですが、申込みをネットのみで実施したところ、分かりにくいといったお問い合わせを本当にたくさんいただきました。わからないし、できない。
静岡のお客さまの、そういった気持ちや状況を理解したうえで、静岡でお仕事をしてくれるようなスタートアップに来てもらえたら、コミュニケーションは早いかと思います。

—— 現状を汲み取れるようなスタートアップに来てもらいたいということですね。

東京の感覚と合わない部分は間違いなくあります。使いやすさや分かりやすさとか、おじいちゃんやおばあちゃんの気持ちにしっかりと寄り添えるような方々ですね。どこの地域もそうかもしれませんが、お客さまが満足しないと受け入れられないし、その企業自体も求められることはありません。『ふれあい巡回』の面対という非効率なことも、おじいちゃんやおばあちゃんは直接お会いしたほうが安心だからという観点もあるのです。そういった状況を理解していただいた上で、当社の付加価値を共に生み出せるスタートアップの方々に出会えたらありがたいです。

インタビュアー:西村真里子(HEART CATCH)

編集・構成:細越一平(Story Design house)

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