農業のオープンイノベーションを静岡から〜AOI-PARCの挑戦

岩城 徹雄氏|一般財団法人アグリオープンイノベーション機構 専務理事兼事務局長

研究で終わらせず、ビジネスに繋げるためのAOI-PARC

──AOI-PARCの施設概要について教えてください。

AOI-PARCは、A(Agri)O(Open)I(Innovation)の頭文字をとったAOIプロジェクトの研究施設として2017年8月に開所しました。施設自体、元は東海大学の海洋学部として建設されたものですが、東海大学の撤退に伴って地元の沼津市が譲渡を受け、AOIプロジェクトを進める静岡県が沼津市から無償で借り受けることができました。土地面積244,652㎡、東京ドームおよそ5個分の広大な敷地のごく一部ですが、農食健、農商工、産学官金を連携させ、最先端の技術をもとに新産業を育成し、新しい価値の創造と経済活性化を目的とするオープンイノベーション施設として日々研究活動が行われています。

行政機関では静岡県先端農業推進室、学術・研究機関では静岡県農林技術研究所次世代栽培システム科、慶應義塾大学、国立研究開発法人理化学研究所、一般社団法人アグロメディカルフーズ研究機構が当施設に入居しています。その他、自ら研究開発を行う民間企業のラボタイプ入居者が8社、民間事業社に対する支援ビジネスを行うオフィスタイプ入居者が3社、その他この拠点には入居しないものの機能を活用する事業者7社が参加しています。そして、このAOIプロジェクトの推進機関として、「一般財団法人アグリオープンイノベーション機構(以下AOI機構)」も入居しています。

──農業とは一見関係がないようにも思える民間企業の入居も目立ちますね。プロジェクトのコンセプトを教えてください。

施設名にもある「オープンイノベーション」という部分を非常に重視した施設となっています。このプロジェクトが目指すことは、AOI-PARCという研究施設などで行われる研究を「研究で終わらせない」こと、「ビジネスに繋げる」ことです。現在AOI機構では、農業を軸にしたオープンイノベーションを進める場として「AOIフォーラム」という会員制組織を運営しています。そこには35業種、約190社のフォーラム会員がいます。研究を研究で終わらせない、ビジネスに繋げるためには、農業とは異なる他の業種を巻き込むことが非常に大切と考えています。それぞれのフィールドの発想だけでは生まれないものが、このAOIフォーラムでは生まれてくると思っています。

──現在スタートアップや産学連携でどういった取り組みをしていますか?

例えば、農業生産法人・ICTメーカー・食品加工メーカー・サプリメントメーカー・大学が連携し、ケールやパプリカ、トマト等の機能性作物の付加価値を最大化する加工技術や新商品の協働研究開発を行なっています。農作物は、温度や湿度、光の当たり方などによって栄養価が変わるということがわかっています。どういった環境下であれば健康や長寿に寄与する栄養価の高い農芸品ができるのか、すなわちその作物の価値を最大化できるのかを、農業生産法人を中心にオープンイノベーションで研究します。それらを用いて、農作物だけでなくそれを活用した健康サプリメントなども作る、といった取り組みも進んでいます。

また、静岡県内では最近、オリーブの生産収穫が盛んになっています。そこに化粧品メーカー等が加わって研究を行い、健康や長生きに通じる高付加価値の製品開発を研究しています。その他にも事例は多数ありますが、共通しているのは「健康」や「長生き」といったテーマです。農業の研究を行うことで、健康を得ることができ長生きができる。豊かな生活を送ることができる。そういったものを農業生産者や関連団体だけではなく異業種企業や大学等の研究機関も一緒になって研究できるということが、AOI-PARCの大きな特徴だと言えるでしょう。

全国的にも優れた実証試験設備

──アグリオープンイノベーションを実現していく上での課題は何でしょうか?

アグリオープンイノベーションという意味合いでは大きく分けて2つの課題があると思っています。ひとつは「農業における情報流通が不足している」こと。農業に関する情報の標準化がなされておらず、例えば研究で解決しようとしている課題がそもそも現場に伝わりにくい、そしてそもそも生産者や生産物の概要把握が困難であるということ。もうひとつは、「コラボレーションする相手が見つけられない」ことです。生産者と企業が交流する機会はそう多くはないですし、機会が少なければ優れた技術や生産物も埋もれてしまうことが多いわけです。

また、研究施設としてのこの建物の使い方にもこれからの発展の余地があります。先程の課題を解決するためにAOIフォーラムの取り組みを行なっていますし、既に業種や地域にとらわれない多くのフォーラム会員もいます。この施設の目指すものはオープンイノベーションですから、例えば「コワーキングスペース」としてより多くの皆さんが集まって使えるようにすることも必要になります。一人でも多くのアイデアを持った人がここに集まり、多様な情報が集約され共有、交換されることで、イノベーションはますます活発化すると考えています。

──スタートアップや中小ベンチャー企業に提供できるフィールドや実験施設はありますか?

もちろんです。まず、AOI-PARCの実証試験設備は、全国的に見ても極めて優れていると言えるでしょう。ラボ内には「次世代栽培実験装置」、「植物・環境計測機器」、「機能性成分分析装置」、「遺伝子解析装置」などの最新鋭機器が揃っています。これまではラボ内での研究に止まっていましたが、2019年7月からは自然光条件下で温度・湿度・日射量・CO2濃度・給液濃度を複合制御可能な新しい研究用温室も本格稼働しました。

設備だけではありません。施設内では先述の通り、慶應義塾大学や理研、静岡県の農林技術研究所が入居し研究を行なっていますので、そういった方々との共同研究ができる、という特徴もあると思います。この成果として、静岡県内企業の株式会社増田採種場が県農林技術研究所との共同研究により、全国で初めて生鮮葉物野菜で機能性表示食品の消費者庁の届出が受理されたケールを商品化した、という事例があります。研究設備だけでなく、研究仲間とそれをビジネスに繋げるAOIフォーラムがあったからこそ実現した好事例と考えています。

──最後に、TECH BEAT Shizuokaに興味をもっているスタートアップにメッセージをお願いします。

AOI-PARC、AOIフォーラムはまだ立ち上がって2年という経験の浅い組織ですので、これから形作っていくところがあります。スタートアップの方々が持つアイデアや閃きを、ぜひ農業の分野に活かしたいと考えています。飛躍的な生産性向上などによる農業の発展は、私たちの生活の豊かさに直結します。機能の優れた農産物を食することで健康寿命を伸ばすことや、幸せの増進に結びつけられるはずです。AOI-PARCやAOIフォーラムの持つ施設や資源を存分に活用し、全く新しいアプローチでビジネスを生んでいく、まさにオープンイノベーションを積極的に行なっていきたいと思います。ぜひAOI-PARCでお会いしましょう。

インタビュアー:矢田貴裕(Arm Treasure Data)

編集・構成:細越一平(Story Design house)

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