「新しい仲間」「新しい世界観」で経営リソースを再定義する

川井 敏行氏|静岡鉄道株式会社 専務取締役 

創立100周年を契機に次の100年を考える

2019年5月1日に創立100周年を迎えた静岡鉄道株式会社。現在は静鉄グループとして、鉄道をはじめ、バスやタクシーといった交通事業のほか、流通、不動産、自動車販売、商業施設やレジャー施設、ホテルの運営など幅広い事業を行っており、グループ企業は28社を数える。「街にいろどりを。人にときめきを。」というブランドメッセージのもと、創業の地静岡とともに歩み、地域の活性化を進めている。一方、100年の歴史からは課題も浮き彫りになっていると、静岡鉄道で専務取締役を務める川井 敏行氏は言う。キーワードは「仲間」と「世界観」だ。

川井 沿線で空いている土地に静岡鉄道の張り紙が貼ってあると「どこのコンビニが来るの?」「マンションにして売るのでしょ?」という声が聞こえてきます。「静岡鉄道が行う開発活動」というと、地域の人たちは、もう内容が容易に想像できてしまうのです。そこに私は静岡鉄道の限界を見ています。
では限界とは何でしょうか? 静岡鉄道は100年間、事業形態を大きく転換せず、ある程度の成功を収めてきました。言い換えると「限られた仲間」と「限られた世界観」でしか事業をしてきていません。この2つのみで長く事業をしてきた結果として、限界が生まれたと考えることができるでしょう。

自前主義の限界を打破するための「Starting XI(スターティングイレブン)

静岡鉄道の社是でまず示されているのは「挑戦」の二文字である。静岡の人流に変化をもたらした新静岡セノバの運営や、県外都市部に進出をはじめたホテル事業、沿線地域の活性化のための組織「プロジェクト11(イレブン)」の立ち上げなど、現状を打開する施策は打たれている。そのなかで、創立100周年の大きな挑戦として立ち上げられたのが、「しずおか未来共創プログラム」と銘打った「Starting XI」だ。静岡ガス株式会社、株式会社テレビ静岡と3社共同で開催するこのプログラムは、「地域のために」という共通の思いをベースに、大企業に起こりがちな自前主義の限界をスタートアップとのコラボレーションで打破し、新しい価値を創造しようとするオープンイノベーションプログラムだ。「Starting XI」では、「公共交通網」や「エネルギー網」、「放送網」など、3社の 持つ経営リソースを開示し、スタートアップやベンチャー企業などのアイディアや 先進技術 と結びつけることで、現在3社が 受け止 めている「地域の課題」を解決 することを目的 としている。募集受付はスタートしており、選考とブラッシュアップを経て、2020年2月頃にDEMO DAYを開催するスケジュールだ。(詳細は https://shizuokamirai.com/)このような静岡県内大手企業からの呼びかけをはじめた理由を、川井氏はこう語る。

川井 私たちが今欲しているのは、限られた仲間ではなく多くの新しい仲間です。私たちがこれまでの事業の中で出会うことのなかった、多様性にあふれる仲間との出会いを求めている、というのが大きな目的です。静岡の大手企業には長年事業を行ってきた独特の世界観があるわけですが、その世界観に対して新しい風を送り込んでほしい。そして、私たちが今まで当たり前だと思っていたものに新しい意味付けをしていきたい。
例えば鉄道やバス。これまでは単なる移動手段 としてしか見られていません。しかしそれを違う観点から見たら、コミュニケーションや情報発信の手段として使えるかもしれません。バスが教育問題解決の糸口になるかもしれない。技術革新や社会変化によってユーザーが求めるものも大きく変容しつつある現在において、私たちがこれまで培ってきた事業展開のモデル、言ってみれば、従来の「 勝ちパターン」と呼べるようなものは、既に通用しなくなりつつあります。
「StartingXI」では、こうした現状を打破するため、私たちの事業を再定義し、世の中で求められているものにフィットさせていくためのアイディアを求めています。残念ながら、私たちはそのアイディアに乏しいと言わざるを得ない。「鉄道やバスは移動手段 」という「当たり前」の世界観で生きてきましたから。

スタートアップとのマッチングから驚くべきイノベーションを

川井 私たちの目にうつる「リソース」と、スタートアップの方々が見る「リソース」は全くの別物だと思っています。東京の大手私鉄では、「私鉄3.0」と銘打って、スタートアップとの取り組みを加速させ事業化を進めていますが、地方都市においても、こうした協業による事業の再定義は避けては通れないものと考えています。
例をあげればバス停。人々が集まり、それぞれの目的地まで行程をともにし、また別れていく、そんなバス停は、地域のコミュニティが衰退し人と人とのリアルな接触が希薄化している現代においては、もはやバスに乗るためだけの場所ではいけないのかもしれません。「子育て世代を支援するための場所」、「地域コミュニティの情報発信をするための場所」、「高齢者世代と若者世代の交流の場所」など、地域社会のためにバス停がどのような機能を持てるのか、または持つべきなのか。そうした議論を本気でできるかどうかが、これからの時代に歴史ある企業が経営を考えていく上でのカギとなってくることは間違いありません。
特に、静岡をはじめ、大都市圏に比べ地域活力の衰退が叫ばれる地方都市においては、私たち事業会社のリソースをいかに社会的な課題を解決するために再定義し、活用していくかという視点が重要だと考えています。

大手企業とスタートアップのマッチングから新しい価値を創出するという意味 で、「Starting XI」と「TECH BEAT Shizuoka」は近しい立ち位置と言える。川井氏はスタートアップとのマッチングへの期待を込めてこう語った。

川井 私たちは「新しい仲間」と「新しい世界観」を求めています。私たちのリソースを再定義してくれる仲間を見つけること、これが「TECH BEAT Shizuoka」と「StartingXI」に求めているものです。マッチングを進めていけば 、驚くようなイノベーションが起きるかもしれません。
イノベーションとは、まだ名前の付いていない、これまでに存在していない、そしてこんなモノやコトがあったらいいなという事象の総称だと考えています。スタートアップのみなさんはぜひ 、既存の世界観や価値観に縛られない、自由でオープンな発想を私たちにぶつけてください。ある意味批判的に「こんなことできるのになぜやらないの」というスタンスでも結構です。今回の「TECH BEAT Shizuoka」に、私たちはそういった出会いを求めています。

編集・構成:細越一平(Story Design house)

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