テクノロジーが世界に生み出す「新しい価値」を考えよう

日髙 祥博氏|ヤマハ発動機株式会社 代表取締役社長 

磨いてきた「ものづくりの技術」と未来

——貴社の事業内容について教えてください。

ヤマハ発動機は、1955年にヤマハ株式会社からオートバイ部門をスピンアウトする形で創業しました。設立以来、磨いてきたのは技術です。オートバイの開発から、小型エンジンの技術を磨き、エンジンを製造するためのものづくりの技術を磨く。さらにそのエンジンを制御するための技術。そういった技術を磨いていくなかで、オートバイから船外機、レジャーボートなどのマリン製品の開発や電動車椅子、スノーモービルなど、製品の幅を広げてきました。今では、FRP(繊維強化プラスティック) でボートを作ったものづくりの技術を活かしてプールも作っています。FRPのプールとしては国内トップで、プール全体でも50%以上のシェアを占めています。

——幅広い製品を手がけてらっしゃるのですね。

最近では、ファクトリーオートメーションなどのロボティクス事業も大きくなってきました。工場にある産業用ロボットの制御技術を磨き、ロボットを内製化していたものを事業化したという経緯です。このように、ハードウェアの技術を組み合わせたり、新しい技術を取り入れたりすることで、新しい製品価値を世に届けてきたという歴史があるわけです。そしてここに来て、私たちがこれまで取り組んできたハードウェアだけではなく、ソフトウェアの技術と組み合わせることで、さらにもう一段階高い、今までできなかったことができるようになる、そういう時勢であることを意識しています。

——創業以来、磨き続けたハードウェア技術にソフトウェア技術も足される、と。

GAFAに見られるように、今はソフトウェア産業が時代を席巻していますよね。ソフトウェアのテクノロジーを積極的に取り入れることは、私たちにとっても急務です。これまでヤマハ発動機は、ハードウェアの会社として品質の良いモノ・機能性に優れたモノを作りこんできました。それらとソフトウェアを融合することで、お客様が望んでいる新しい価値や社会の課題を解決するためのモノ、より高い次元のモノを生み出せるはずだと私は考えています。

ヤマハ発動機の考えるスタートアップとの取り組み方

——今回、「TECH BEAT Shizuoka」に参加を決めた経緯を教えていただけますか?

ソフトウェアとハードウェアを融合させていく戦略のためにも、私たちは高度なエンジニアの確保を強化したいと思っています。しかし静岡に拠点を構える企業として、人材確保は現実的に容易ではない。ヤマハ発動機という企業に興味を持ってくれた方がいても、「勤務地は静岡県磐田市」と伝えた瞬間に辞退されてしまうこともあるのです。ソフトウェアエンジニアもテクノロジースタートアップも、日本では東京に集中していると言わざるを得ません。「TECH BEAT Shizuoka」は、ソフトウェアのテクノロジーに長けた先進的なテクノロジースタートアップが静岡に集まりマッチングが行われるという、大きなチャンスです。是非とも参加したいと考えました。

——スタートアップ企業との協業はどう考えてらっしゃいますか?

一般的に、「ハードを持たない」「投資資金がない」「工場を持っていない」「固定資産も保有していない」、しかしITやソフトウェアのアイディアが豊富なスタートアップと、すでに工場を持っていて、ハードウェアのものづくりを事業としている当社のような企業というのは、大変相性が良いと思っています。当社のハードウェアを、スタートアップの技術やアイディアで活かしていきたいですね。「この技術をこんな風に活かせますよ」という提案を積極的に聞きたいというのが、「TECH BEAT Shizuoka」に対する一番大きい期待ですね。これまでできなかったことが実現できるのではないでしょうか。

——モノをつくるという観点から、スタートアップに提供 できる価値もありますよね。例えばプロトタイピングについてはいかがでしょうか。 昨今ではハードウェア系のスタートアップも登場してくるなか、プロトタイピングに課題を感じているスタートアップも多いと聞きます。 例えばプロトタイピングと言えば深センが有名ですが…

深センが凄いということは聞いています。大概のモノは手に入って、大概のプロトタイプは出来上がると。ただ、一品プロトタイプを作るっていうのと、その後の数千数万の量産までを見通して作るというのは、ものづくりとしては次元が違うところにあると思います。私たちや、静岡県内で製造業を営んでいる企業の強みはというと、プロトタイプをやった瞬間に、これは量産する時にはこういう課題が出るということが、その時点で全部わかるということです。プロトタイピングの段階で、量産化のための技術や設定、仕様をある程度予知、予測しながら対応できるというのが、私たちの持っている経験値の強みと言いますか。そこに差は出ると思います。

——そういった部分を相談させていただけるとしたら、スタートアップは非常に心強いですね!

——働く環境については、いかがでしょうか。例えば、東京にいながらにして協業という形をとることは可能ですか?

可能です。ソフトウェアの魅力のひとつは、場所を選ばないこと。どうしても磐田のオフィスに来なければいけない仕事もあるかもしれませんが、日々の開発や設計、アイディア出しといった仕事をする場所は選ばないのが良いですよね。
最近は様々なツールを通じて、コミュニケーションを取ること自体に場所は選ばなくなってきています。東京在住スタートアップとの協業はいくらでもやれると思いますね。

スタートアップの積極的な提案を歓迎する

——貴社はシリコンバレーにも拠点がありますね。どのような機能を持っているのでしょうか?

「ヤマハ・モーター・ベンチャーズ・アンド・ラボラトリー・シリコンバレー」を創設したのは4年前です。当時、シリコンバレーを中心に起きている多様な事象を私たちとしても正しく理解しないと世界のスピードについていけなくなるという危機感から、まずその中心に拠点を置きました。ベンチャー投資とビジネス開発が機能しはじめて、一昨年、シリコンバレーはどういう役割で本社の先端技術はどういう役割か、そして私たちとしては今後どういう領域にどういうポートフォリオでどれくらいの規模感の投資をしていくかということを構造化したのです。その結果、調査から実際の成長戦略を描くまでの投資に、幅広く目を向けられるような構造になっています。

——スタートアップが貴社に提案をするにあたり、求められることは何でしょうか。

抽象的な話になってしまいますが、一番大事なのは「世の中をよく知る」ということでしょうね。世の中をよく知った上で、今あるテクノロジーでどのように世の中に新たな価値を生み出せるのかを考える。その最初のコンセプトを考えるところが一番重要だと思っています。世の中はこう変わってきたというのを見て、今後世の中はこう変わっていくべきじゃないかと考えられれば、いろんなアイディアが出てくるのではないでしょうか。

——「TECH BEAT Shizuoka」は一過性のマッチングイベントではなく、継続的な活動を目指しています。

「提案の間口は広い」という認識でいてもらえると嬉しいですね。少なくとも当社は、聞く耳を持たないことはありません。先程申し上げた投資戦略を含めたストラクチャーを明確にした流れはできていますので、「TECH BEAT Shizuoka」もその一環の活動として捉えています。是非積極的に提案をいただければと思います。常に目と耳を世界に広く向けているつもりです。また、今回チャレンジしたいと思っているのは、マッチングした後の部分です。実際にそこから実りを得ていくというのは、私たちもまだまだ経験値が浅いのです。スタートアップの方々は死に物狂いで進んでいる方が多い。そういったところからも私たちが学ぶことがあるはずです。実際に手を組んで一緒になって汗をかくという、そういう機会に「TECHBEATShizuoka」はしていきたいですね。

インタビュアー:堀内健后(Arm Treasure Data)

編集・構成:細越一平(Story Design house)

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