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インタビュー&イベントレポート

イノベーションを形にするためには「受け皿」が重要だ

有馬 健司氏|株式会社小糸製作所 代表取締役副社長 技術本部長 モビリティ戦略部・研究所・知的財産部担当

 

「安全を光に託して」という企業メッセージのもと、自動車照明機器をメインに事業展開する小糸製作所。開発から生産までを一貫して行うトータルサプライヤーである同社は、海外にも複数の生産拠点をもつグローバル企業として、世界でも存在感を強めている。2017年4月には、新事業を構想する部署「モビリティ戦略部」を設置。スタートアップとの協業も積極的に行っている。今回は代表取締役副社長の有馬 健司氏に話を伺った。

 

──モビリティ戦略部を立ち上げた目的を教えてください。

 

まず私たちは、安全に寄与したいということを創業以来のミッションとして、白熱灯からハロゲン、ディスチャージ、そしてLEDと開発をしてきました。自動車用ランプといった既存の事業だけにとらわれずに、新しい事業を構想していくのが、モビリティ事業部の目的です。

例えば、ランプの中にセンサーやカメラの技術を組み込むとします。そうすると、ランプは単なる光を出す機能のパーツではなく、センサーやカメラから取り入れたさまざまなデータをドライバーやマシンに提供するパーツになりえますよね。そこからセンサーやカメラ、あるいは道路インフラ周りのセンシングなどの新規事業に繫がってくる。

 

──先日はイスラエルのスタートアップの株式取得を行うなど、スタートアップとの取り組みも進めてらっしゃいますね。

 

そうですね。ランプの中に組み込むセンサーも今のままだと大きすぎるので、センサー自体を変えていく必要があります。センサーの小型化やカメラなど、当社が抱える課題を解決していくためにアンテナを張って、研究の方向性が合うスタートアップの方々と取り組みをしています。

 

スタートアップを受け入れる「キャッチャー」の重要性

 

──シリコンバレーのラボでの取り組みを教えていただけますか?

 

シリコンバレーのラボでは毎月、いろんな人に登壇してもらう「センサーフュージョンミートアップ」を企画していまして、毎回、新しいスタートアップが参加しています。登録が現段階で1,000人弱いらっしゃって、分野も様々な方とミートアップする。私たちが求める人材や技術があれば、技術課題を一緒に解決するためのお話を進めることも当然あります。

 

 

シリコンバレーでそういった調査することはもちろん重要ですが、当社が力を入れているのは、「受け皿」の部分です。野球で例えて「ピッチャー」と「キャッチャー」という表現をしているのですが、シリコンバレーのラボはいわゆる「ピッチャー」ですね。

 

それをしっかりと受ける「キャッチャー」としての部署が「モビリティ戦略部」です。スタートアップの技術や運用を、全社的にどう活用していくかという部分、その「キャッチャー」部分に非常に力を入れてやっている。それはもしかしたら当社独自と言って良いかも知れません。スタートアップを活かすためにどういう検討とお付き合いの仕方が必要かを、真剣に考える文化を作ろうとしています。

 

──組織内で、従来と異なるやり方を進めようとするのは難しいと思うのですが、そこに対して工夫されていることはありますか?

 

確かに、従来と違うものを開発して、それを会社としてのコンセンサスをとりながら商品化していくのは、おそらくどこのメーカーでも難しいと考えるのではないでしょうか。

これはベストな解決法がないかもしれません。それでも、モビリティ戦略部でしっかりとビジネスモデルを描き、全社の関係する部署に説明をしてコンセンサスを得て、会社として力を結集して行う、ということが大切だと思います。難しいですけどね。

そういった意味で言うと、今回の「TECH BEAT Shizuoka」に参加するスタートアップの中には、私たちが求める技術のアイデアや効率化に対するアイデア、あるいはビジネスモデルを作るに当たってのノウハウをお持ちの企業もあるでしょう。そういった企業との出会いを今回楽しみにしているところですね。

 

 

静岡と世界をつなぐエコシステムを

 

──「TECH BEAT Shizuoka」を開催することで、東京を中心としたスタートアップが静岡に集まりますが、これからは静岡発のスタートアップが増えてくると良いですね。

 

小糸製作所の研究開発の軸足は静岡に置いていますので、この地で私たちと一緒にやっていただけるスタートアップが生まれてくるというのは、非常にありがたいことですし、大いに期待していることでもあります。

しかし、残念ながら今までは静岡でスタートアップ企業を育てるようなイベントはあまりなかったかもしれません。そうは言いながら一企業でそういった仕掛けを行うのは簡単ではありませんので、今回のイベントをきっかけに「静岡で起業してみようか」という企業が生まれてくると良いなと思います。

 

──そうやって生まれた静岡発のスタートアップが、技術を持って貴社と協業して。例えばですが、「TECH BEAT Shizuoka」への参加がきっかけで、貴社のような静岡のグローバル企業が毎年ラスベガスで開催されているテクノロジートレードショーCESに出展する際に静岡発スタートアップを世界に連れ出していくといったことが実現できたら素晴らしいことですよね。

 

すでにここ2年のCES出展では、協業しているスタートアップの名前をオープンにしています。CESの展示では、実際のモデルやコンセプトの紹介も行っているので、「TECH BEAT Shizuoka」経由で出会ったスタートアップ企業との間で何かアイデアが生まれた場合はそこでも紹介することになると思いますよ。

──ということは、小糸製作所と協業することによって、製品が世界に出る可能性もあるということですか?

 

もちろんあると思います。

──「TECH BEAT Shizuoka」自体も将来的には、海外の優秀なスタートアップも静岡に集まるようなプロジェクトにしていきたいと思っています。

 

初回ということで、私たちも「TECH BEAT Shizuoka」は試行錯誤の段階ですが、一緒にそういった仕組みを考えていきたいですね。スタートアップとの取り組みを進めていく中で、やはり重要なのは協業の仕組みだと思います。

 

「TECH BEAT Shizuoka」も、シリコンバレーの真似ではなく、静岡ならではの協業の仕組みがあれば、海外のスタートアップも目をつけてくるかも知れません。静岡県の人たちをもっと巻き込んで考えていきたいですね。

 

 

インタビューにご協力いただいた伊藤 昌康氏(執行役員 技術本部 副本部長 モビリティ戦略部長 研究所長・写真上)、遠藤 修氏(モビリティ戦略部 主管・写真下)

 

 

 

インタビュアー:西村真里子(HEART CATCH)

編集・構成:細越一平(Story Design house)