加和太建設が取り組むオープンイノベーションの根っこは、まちづくり

㊨河田亮一 氏(加和太建設株式会社 代表取締役)
㊧近藤剛 氏(建設イノベーション推進部 事業統括責任者。ON-SITE Xの立ち上げ・運営を担当)
加和太建設株式会社は、静岡県三島市に本社を構える創業79年の総合建設会社。公共事業や建築にとどまらず、地場ゼネコンの変革を目指し、三島市中心部の空き物件をオフィスや商業施設へと再生し、街に賑わいを生み出しています。近年は、スタートアップ支援や建設DXの推進を目的としたコミュニティの運営など、積極的にオープンイノベーション[*1]に取り組んでいます。
[*1]オープンイノベーション:企業が外部の技術やアイデアを取り入れて共創する革新手法のこと
源兵衛川のせせらぎが春夏秋冬まちに透明感を運び込むような、美しく温もりある町、三島。その三島に本社を構える加和太建設さんの名前は、いろんな文脈でお聞きしていた。そのなかでもとりわけ不思議だったのは、スタートアップ[*2]や起業家の支援を始めたこと。
[*2]スタートアップ:革新的な技術やアイデアで急成長を目指す新興企業のこと
なんでスタートアップ?民間企業が他社の創業支援をするメリットなんてあるの?それは行政や支援機関の仕事じゃないのか。同じように思った方も多いと思うし、そんなの取り組んでいるご本人たちが一番わかっていらっしゃるはず。野暮な質問だとは思いながらも、聞かずにいられませんでした。
「スタートアップ支援や建設DXコミュニティの運営はどんな成果を期待してはじめたんですか?」
オープンイノベーションの成果は、取り組まないとわからない。
「いや~わかんないよ!」と全開の笑顔で河田社長。社長もわかんない・・・のに加和太建設はかなりの熱量でスタートアップ支援を行っている。聞けば始まりは2021年なので、もう5年目に入る。しかも最近は、高校の探求学習の授業で起業家育成のようなプログラムも引き受けていたり、まちのためにはなるけど、会社のためになるかどうかはわかりづらい取り組みが増えている。
「どんな成果につながるかなんてわからないのがオープンイノベーションだと思うけど、でも結果的に同業他社とのつながりができたり、そこから建設や不動産の仕事が生まれたり、加和太さんなら、って声をかけてもらうことが増えた。あとなにより会社としての学びにもなっているね。」と。
こう私が書き起こすと、ふわっとした印象を与えてしまうかもしれないけれど、河田社長が数字に無頓着なわけがない。20年前に家業の加和太建設に入社したときは、倒産寸前の危機的状況だった。そこから社長を継いで、黒字化し、売り上げを年々伸ばしてきた方なのだから。では足元の事業を固めつつ、どうして不確実な未来へ投資しているのか。
色んな人と活動した方が、まちはよくなった
「30代前半で三島にもどったときに、映画作りのプロジェクトに参加したり、商業施設の運営をしたり、まちづくりに関わったのが原体験かもしれない。」

まちづくりの活動の中で、主婦やサラリーマン、学生とともに地域のことを考えていたら、経営者感覚では生まれないような発想を目の当たりにされたそう。「ゴールもアプローチも変わっていくけれど、いろんな属性の人たちと活動した方が、結果的にまちはよくなった。」と。
もちろん従来の建設の仕事では、決められた仕事を計画通り一生懸命取り組むことが大事なシーンは多い。だけどもオープンイノベーションの領域では、そもそもビジネス上の正解が存在しない。だからこそ、「地場ゼネコンの変革」というビジョンだけはしっかり見据えながら、まちづくりと同じように多様な人たちと柔軟にチャレンジしていくやり方が合っているそうだ。
2021年にスタートアップ支援をスタート、翌年には建設DXのコミュニティを立ち上げる
まちの魅力や課題について考える機会が増えた頃に、折しもTECH BEAT Shizuokaがスタートした。起業家の熱量を上手くまちに伝播させることができれば、三島で挑戦する雰囲気が高まると感じ、起業家や支援者を三島に集めよう、と2021年に生まれたのが「LtG Startup Studio」。起業家むけに三島での居場所を提供するだけでなく、資金援助、伴走支援なども行っている。

さらに翌年には、地方建設会社と建設DXに取り組むスタートアップのためのコミュニティ、ON-SITE X(オンサイトエックス)を始める。ON-SITE X事業責任者である近藤さんは、三島出身で、大学・大学院で土木を学ぶも、ファーストキャリアはIT企業でDX化やスマートシティを担当。当時、コロナ禍で三島に居を移している中、LtG Startup Studioが主催する三島の交流イベントで河田社長と出会う。会ったその日に、サウナで夜中まで建設DXコミュニティの構想で盛り上がったことで加和太建設に転職。そのままON-SITE Xを立ち上げ、運営責任者を担っている。(入社の経緯とスピード感が、この会社の強さを端的に表している気がします。)
「もともとはスタートアップを軸としたのコミュニティとして始めたON-SITE Xですが、徐々に建設会社向けに軸足を移しました。」と、近藤さん。コミュニティの初年度は木内建設(静岡市)、須山建設(浜松市)とともに始めたが、いまでは静岡県内にとどまらず全国100社以上に広がっている。別の地域の会社の方が競合しないぶん、情報交換がしやすいらしく、各社の現場技術者たちを三島に集め、ワークショップを繰り返していったところ、今では具体的な現場DXの実践ノウハウや、業界向けITサービスの本音の感想をオンライン上でも聞きあえる信頼関係が構築されているそう。
(DX担当者のコミュニティづくりを模索しては失敗している身としては、とても胸が熱くなるお話でした。会社の垣根を超えた関係性を構築するのって、すごく難しいんですよ・・すごい・・)。
TECH BEAT Shizuokaは毎年の成果発表会
最後に改めて、河田社長にTECH BEAT Shizuokaの位置づけをお聞きしたところ、「LtGもON-SITEXもどちらもTECH BEATに刺激を受けて立ち上がったし、他社を巻き込むときにも気運を作ってもらったと思っています。だからこそ、毎年のTECH BEATは成果発表の場としてずっと意識しています。」続けて、 「今年は、会社の業務で課題感をもっている社員をTECH BEAT Shizuokaの会場に行かせ、自分の目線で情報収集をしてもらおうかな。」とのこと。
インタビュー中、ずっと河田社長の目がキラキラと輝いていたのが印象的だった。今年の7月のTECH BEAT Shizuokaでも、きっと新しい報告が聞けるに違いない。
聞き手・書き手:阪口せりな
阪口せりな
都内シンクタンクを経て2018年に静岡県に移住。「ふじのくにICT人材育成プロデューサー」として静岡県のIT人材育成事業の企画・運営を支援中。2019年より静岡経済研究所にて特任研究員。工場好きが高じて趣味で工場見学のイベントを企画運営。