“静岡のエヂソン”が創った会社に既定路線はない。挑戦と発信の先にイノベーションあり。

株式会社イシダテック 代表取締役 石田尚氏
壁の写真は、石田社長の曽祖父であり創業者の祖父を育てた、石田和一郎氏
株式会社イシダテックは、1948年に静岡県焼津市で創業した産業機械メーカー。主に食品・医薬品業界向けの自動化機械をオーダーメイドで開発・設計し、製造する。社員数は50人に満たない中小企業ながら、note[*1]を活用した情報発信や、AIを組み込んだ画像識別装置の開発、スタートアップとの協業など、数多くの挑戦的な取り組みで注目されている。
[*1] note: ユーザーが文章や画像等を投稿・共有できるプラットフォーム。企業が広報・ブランディングのために、親しみやすい記事を発信する場所としても活用されている。
イシダテックさんのことは、noteやX(twitter)での情報発信を通して数年前から知っていました。これまでに何度か会社にお邪魔する機会があり、そのたびに「焼津にこんな面白い会社があったなんて」と感じるとともに、訪れた人たちは元気をもらって帰ることになります。それは今回のインタビューでもそうでした。
まさか、あの大手企業と共にマグロ革命を起こそうとしているなんて・・・。
非破壊でマグロの品質を判定する装置を作る
マグロの品質は見た目ではわからない。そのため冷凍マグロのセリでは尾部分を切断し、断面の色見や触感などから鮮度や肉質を判定する「尾切り選別」が行われている。この工程は手間もかかるし、熟練者でないと見分けることが難しい。
この選別工程を効率化する手段として、超音波を用いた非破壊検査の手法が模索されてきた。ただし検査だけが非破壊になっても、業界に与えるインパクトは限定的。検査を全自動化するラインができて初めて、安心公正なマグロ流通が実現する。マグロの価格は安定し、作業者不足は解消され、そして消費者はうまいトロを食べることができる(かもしれない)。この自動化ラインをいかに構築するか、という段階で白羽の矢がたったのが、イシダテックだった。(詳細は4月9日に発表されたこちらのリリースをご覧いただきたい。 https://pr.fujitsu.com/jp/news/2025/04/9.html )
なぜ、焼津の中小企業が選ばれたのか。それはもちろん、イシダテックがこれまで培ってきた食品加工装置の開発力と実績を基盤としつつ、そこにAIを組み込めるソフトウェア側の技術力もある鬼に金棒状態の企業だから。だが、それだけでは埋もれてしまっていたかもしれない。
今回の件は、イシダテックがnoteで公開していた「カツオ選別AI」に関する記事を見たファンがたまたま関係者であり、「マグロ設備の開発には、AIとハードの両方に精通したイシダテックが最適ではないか」と連絡してきたことが発端だという。「最初は詐欺かと思いましたよ、そんなうまい話しはない、って(笑)」と石田社長はにこにこと語る。結局、自分たちの取組みを存分に発信していたことで、予期せぬ出会いを引き寄せたのである。
既定路線は、ない

ここ数年の動きを見るだけでも、イシダテックは次々と新しい挑戦を行っている。例えばワサビのコンテナ栽培ベンチャーへの出資、スイス企業とのジョイントベンチャー、先述のカツオ選別AIプロジェクト・・・と枚挙にいとまがない。新しいことに対する抵抗感はないのか、と伺うと、「そもそも、うちっぽい仕事って全部受託開発なので、やったことないことが日常茶飯事なんですよね。既定路線がないというか。」既定路線がない、という環境に楽しさを見いだせる人が社内にも多いのだろう。ではなぜそのような社風がはぐくまれてきたのか。ここで少し、イシダテックの沿革を振り返っておきたい。
発明家の祖父が創業し、父が拡大・安定させた

イシダテックは、石田社長の祖父・石田稔氏によって、昭和23年(1948年)に創業された。稔さんは”静岡のエヂソン”と呼ばれる発明家だったらしい。社史や昭和の時代の会社紹介資料をみせていただくと、随所に「発明」と「特許」の文字が躍る。みかん缶詰のために外皮を剥く機械(みかん自動剥皮機)や、てんぷら投入機、鰹節の乾燥装置など食品工場向けのユニークな装置が多数開発されている。

(昭和52年頃印刷)
その後、石田社長の父が二代目として事業を継承し、会社の拡大・安定に尽力。2020年には石田社長が三代目の代表取締役に就任したが、顧客の課題に寄り添い、常に新しい発想で解決策を考える姿勢は、今のイシダテックにも確実に受け継がれている。「幼少期は、よく祖父に遊んでもらっていました。祖父の工作室で変なおもちゃの武器をつくってもらったり、役にたつものも作ったり。」
ものづくりフィロソフィーはおじい様ゆずりなのだろう。
TECH BEAT Shizuokaでは、新たな出会いに期待
イシダテックは2024年の「TECH BEAT Shizuoka AWARD」において実行委員会委員長賞を受賞している。株式会社ゼロワンと共同開発した空間モニタリングのIoTソリューションで、現在は医院での実証実験が進行中。
石田社長は今後について、受託開発を継続しつつも、ゼロワンとの協業のようにオープンイノベーションを通じて定番商品を生み出すことを視野に入れている。
「だから、社長や役員クラスが直接営業に集まっているTECH BEAT Shizuokaは、その場で話が展開する可能性があり期待しています。」と。
挑戦し、そのプロセスを発信し続けることで、新たなイノベーションを引き寄せてきたイシダテック。その次なる挑戦は、もしかすると――TECH BEAT Shizuoka 2025がきっかけになるかもしれない。
聞き手・書き手:阪口せりな
阪口せりな
都内シンクタンクを経て2018年に静岡県に移住。「ふじのくにICT人材育成プロデューサー」として静岡県のIT人材育成事業の企画・運営を支援中。2019年より静岡経済研究所にて特任研究員。工場好きが高じて趣味で工場見学のイベントを企画運営。