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レポート & コラム

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TECH BEAT Shizuoka 2025 AFTERBURNER#1 開催レポート

TECH BEAT Shizuoka 2025 AFTERBURNER#1 開催レポート

7月にグランシップで開催した「TECH BEAT Shizuoka 2025」で生まれた出会いや対話を、具体的な共創へつなげていく年間プログラム「AFTERBURNER」。その第一弾として、2026年1月27日(火)に「TECH BEAT Shizuoka 2025 AFTERBURNER #1/観光×OPEN INNOVATION」をアゴラ沼津で実施しました。

「観光業を静岡の産業の柱に」「持続可能性を意識した地域の取り組み」を掲げ、東部・伊豆エリアを起点に、静岡へ観光客をどう呼び込み、地域で受け入れ体制を構築するか――。その両輪を前提に、現場の課題と、受け入れ体制を支える仕組みづくりの取組事例をもとに意見が交わされました。

登壇者には、一般財団法人熱海観光局 専務理事兼CEOの上田和佳氏、株式会社竹屋旅館 代表取締役の竹内佑騎氏、株式会社中島屋ホテルズ 代表取締役社長の鈴木健太郎氏を迎え、モデレーターはTECH BEAT Shizuokaプロデューサー、株式会社HEART CATCH 代表取締役の西村真里子氏が務めました。

イベント参加者の様子

熱海観光局が進める「熱海型DMO」と、持続可能性の設計

熱海型DMOの取り組みを紹介する上田和佳氏の講演の様子
熱海型DMOの取り組みを紹介する上田和佳氏の講演の様子

一般財団法人熱海観光局 専務理事兼CEOの上田氏からは、熱海市で立ち上がったDMO (※1) の設計思想と、データから見える現状・課題についてお話しいただきました。

熱海市では、県内で初めて宿泊税を原資としたDMO組織を立ち上げ、観光行政が担ってきた業務の多くをDMOに移管することで、継続性と専門性を備えた体制を目指しています。また、観光を持続可能なものにするため、成果を「来訪者の満足」に留めず、「住んでいる人にとっての豊かさ」へどう還元していくかという視点を持って観光施策を推進しています。

静岡県内でも有数の観光地である熱海ですが、観光客数の季節・曜日変動の大きさ、日帰り客の増加に伴う混雑や交通課題、インバウンド比率の現状など、伸ばすべき領域とリスクが併存しており、今後DMOとして、こうした課題に取り組む必要性があるという認識を共有いただきました。

(※1)DMO
DMO(Destination Management/Marketing Organization/観光地域づくり法人)とは、観光地を「地域として経営」する視点で、行政・事業者など多様な関係者をつなぎ、データに基づく戦略の策定・実行・改善を担う中核的な組織。
日本では観光庁が、2015年11月(平成27年11月)に「登録DMO」および「候補DMO」を登録する制度を創設し、日本版DMOとして制度的に整備した。

DMOに必要な「人」と「お金」をどう考えるか

熱海市DMOでは、運営スタッフを市からの出向者に限定せず、海外の観光局や現地業務の経験者など多様なメンバーを迎えてマーケティングや企画を担う体制を整えることで、観光地経営を「担当部署の仕事」に閉じず中長期的に課題に取り組んでいるそうです。

また、上田氏がDMO設立に必要な要素として挙げたのが「人」と「お金」。特に財源については、補助金に依存した運営では継続性と投資の自由度が担保しにくいことから、宿泊税や入湯税など、観光投資に紐づく財源をどう確保するかが重要だと言います。熱海市では宿泊税を観光施策の原資とすることで、これまで観光に充てていた税金を子育て支援などに充てることができ、住民目線でも地域の魅力を高め、観光を「地域の未来への投資」として位置づけ直す視点が大切であるという考えに参加者の共感が集まりました。

宿泊事業者による「宿クロス」— 受け入れる力を共創で高める

続いて、株式会社中島屋ホテルズ 代表取締役社長の鈴木氏と、株式会社竹屋旅館 代表取締役の竹内氏が登壇し、宿泊事業の現場から見た変化対応と、事業者間連携の取り組みを紹介いただきました。

ここで取り上げられた「宿クロス」は、静岡県内の宿泊事業者が立場を越えて集まり、人手不足やバックヤード業務の効率化といった共通課題を「競争」ではなく「共創」として扱うための取り組みです。立ち上げにあたっては、TECH BEAT Shizuokaで紹介された建設業界の取り組み「ON-SITE X」(※2)に強く影響を受けたといい、少数社から始めること、経営者と現場担当者が同席すること、現場同士が行き来して学び合うこと、オープンな姿勢を保つことなど、進め方の要点を宿泊業の現場に置き換えて設計してきました。各社が同じテーマに取り組みながら、経営者と現場担当者がともに参加し、進捗共有や相互見学を重ねて学び合うことで、改善のプロセスを前に進める枠組みとして株式会社時之栖を含めた3社で運営されています。

団体客用の宴会場だった部屋を、室内で楽しめるプレイルームや広々としたラウンジに改装した焼津グランドホテルでの「オールインクルーシブ」を例に、旅行のスタイルが団体中心から個人中心へ移った市場環境の中で、価値を「安さ」ではなく体験全体で再設計してきた経緯が語られました。
また、中島屋グランドホテルでは、ローカルアーティストとの協業による伝統工芸を取り入れたオブジェの設置や、5S(整理・整頓・清掃・清潔・しつけ)の徹底、1on1の仕組み化によるホテルで働く人の労働環境の改革など、施設や構造が簡単に変えられない中でも、付加価値や従業員のモチベーションを高め、より良いサービスを提供しようと試みています。

(※2)ON-SITE X
ON-SITE X(オンサイト・エックス)は、加和太建設株式会社(静岡県三島市)が須山建設株式会社(浜松市)、木内建設株式会社(静岡市)とともに2022年に始動した建設DXコミュニティで、地方建設会社が抱える現場・組織課題を起点に、建設領域のスタートアップとの出会い、検証、協業を後押しし、プロダクト開発支援などを通じて建設業の生産性向上・提供価値向上を目指す取り組み。
TECH BEAT Shizuokaの開始期に形成されたオープンイノベーションの機運を背景に始動し、TECH BEAT Shizuokaのセッション等でも取り組みが紹介されている。

鈴木健太郎氏による講演の様子

中島屋ホテルズの取り組みを紹介する様子

また、竹屋旅館では、自社の宿泊事業を「地域に何を残せるか」という視点で捉え、売上・利益だけでは測れない「ローカルインパクト」を経営の指標として掲げています。発起人の竹内氏がこうした視点を持っていたことが、競合相手ではなく共創のパートナーとして宿同士が課題を持ち寄るコミュニティ「宿クロス」に繋がります。

昨年の「宿クロス」では、人手不足を背景に、客室の生産性の向上をテーマに据え、経営者と現場のスタッフが同じテーブルにつき、それぞれの視点から意見を出し合い改善を進めてきたこと、他社に弱みを開示し、互いの現場を見ながら切磋琢磨できる関係性が取り組みの推進力になるというお話が印象的でした。

竹内佑騎氏の講演風景

宿クロスの取り組み紹介スライド

観光客の呼び込みの強化と、地域への還元

その後のディスカッションでは、地域への観光客の呼び込みと併せて、その受け皿をどのように確保していくか、焦点が当てられました。

インバウンド誘客に目が向きがちな中で、インバウンドの増加に伴うオーバーツーリズムにより、既存の観光地から押し出された国内観光客や地域住民の需要を取り込む、徹底的にローカルを突き詰めるという選択肢もあるのではないか、という鈴木氏の異なる視点からの回答が印象的でした。

また、関心を集めたのが、リネンのクリーニング・配送サービスなど周辺サプライチェーンが弱体化することで、観光客の受け入れが難しくなる未来が迫っている、という竹内氏の課題提起。地域内でリネンや歯ブラシなどアメニティの規格を統一し、各社で最適な運営体制を目指すのではなく、地域の関連事業者が連携して受入体制を守っていく仕組みを構築していく必要があるのではないか、というアイデアを披露していただきました。

上田氏からは、住民の誇り(シビックプライド)と接続されないまま観光業が拡大し、地域住民と観光客との分断が生じる状態を避けるため、「観光客が増えるほど暮らしが良くなる」状態を設計するとともに、その情報を発信していく必要性が語られました。また、地域の宿泊事業者の人手不足への対応として、事業者支援マッチングの仕組みづくりや、地域単位での外国人材の受入体制整備の取組など、熱海市としての観光・宿泊業の人手不足に対する対応を紹介いただきました。

強く魅力ある「個」が集まって初めて、地域という「面」に魅力が生まれる、という言葉とともに、各事業者と地域、それぞれが取り組むべき課題について考えさせられる結びとなりました。

現場改善の進め方、求められるテクノロジー

イベントの最後に参加者から挙がった「現場の業務改善をどのように進めるべきか」という問いに対して、「宿クロス」では、清掃状況の可視化ツールの導入や自社以外の現場見学を通じて自社の強みを発見し、現場の人々に「仕事への誇り」が生まれたことや、経営層と現場を区別せずに、一緒に改善方法を検討することが成功に繋がるのではないか、というコメントをいただきました。また、「宿泊業で活用が期待されるテクノロジー」としては、清掃・調理など様々なバリエーションの動作が含まれる業務を支えるヒューマノイド等の汎用ロボット技術への期待、多言語対応、そしてモビリティの重要性が挙がりました。同時にテクノロジーの導入は「単純なコスト削減のためではなく、効率化により捻出した時間などをより良いサービス提供に活かすためである」という姿勢を示し、従業員やお客様から支持される形で進めるが望ましいのではないかという指摘もありました。

今回のイベントを通じて、宿泊・観光業や自治体の参加者からは、「他業界の取組を参考にしながら自産業の課題に取り組む様は、まさにイノベーションの始まりだと感じられた」「地域の魅力を観光という文脈で発揮するには、個が強くなることが大切という気づきが得られた」「観光業の成長が地域住民の暮らしを圧迫せず、むしろ生活を向上させるための仕組みづくりをすることで、持続可能な地域の受け入れが可能になる、という話が印象に残った」「自分の地域でも『宿クロス』を立ち上げてみたい」といった声が寄せられました。

TECH BEAT Shizuokaは今後も、AFTERBURNERを通じて県内各地で学びと接続の場を継続的に展開していきます。

登壇者の集合写真
左から、竹内 佑騎 氏(株式会社竹屋旅館)、鈴木 健太郎 氏(株式会社中島屋ホテルズ)、上田 和佳 氏(一般財団法人熱海観光局)、西村 真里子 氏(TECH BEAT Shizuoka プロデューサー)、杉山 太基 氏(TECH BEAT Shizuoka 実行委員/静岡銀行)