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レポート & コラム

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TECH BEAT Shizuoka 2025 AFTERBURNER #3 開催レポート

TECH BEAT Shizuoka 2025 AFTERBURNER #3 開催レポート

7月にグランシップで開催した「TECH BEAT Shizuoka 2025」で交わったアイデアと人を、具体的な共創へ育てていく年間プログラム「AFTERBURNER」。西部エリアでの開催となる第3回は「TECH BEAT Shizuoka 2025 AFTERBURNER #3/製造業×OPEN INNOVATION」として、2026年2月24日(火)にアゴラ浜松で開催しました。

電気自動車(EV)や人工知能(AI)などの新技術の普及、市場が求める製品の変化に伴い、製造業・自動車部品メーカーをとりまく環境は目まぐるしく変化しています。介護や農業・水産業など新たな領域への進出も視野に入れながら、ものづくり県SHIZUOKAが培ってきたレガシーを、次のビジネスへどう活かしていくか。各社の新規事業の進め方や取組への想いに迫りました。

登壇者

  • 木村 亮介 氏(ジヤトコ株式会社 新規事業推進部 プロフェッショナルスタッフ)
  • 西山 将史 氏(株式会社エフ・シー・シー 新事業開発部 事業探索課 課長)
  • 清水 幹元 氏(株式会社ユニバンス 新事業開発室 新事業開発グループ 課長)
  • 石井 幹人 氏(株式会社エンコース 代表取締役)

モデレーター:

  • 堀内 健后 氏(TECH BEAT Shizuoka プロデューサー、Carbide Ventures General Partner)

TECH BEAT Shizuoka AFTERBURNER #3の会場の様子

本音トーク~新規事業の現在地

モデレーターの堀内氏

「本番前、登壇者の皆さんと打合せをしていた中で、新規事業開発担当者が集まって本音トークをすると苦労話や暗い話になりがちだけど、明るく前向きな方向を目指そう!という話になりました。皆さん、安心して聞いてください」という堀内氏の発言から、会場は一気にリラックスした雰囲気に。まずは、登壇者の自己紹介として各企業の概要や新規事業の取組、自身の立ち位置について簡単に説明いただきました。

ジヤトコ株式会社/3つの柱で新規事業の種をまく

ジヤトコの取り組みイメージ

ジヤトコでは、自動車等のエンジンの変速機を中心に培ってきた技術を深化させ、電動アシスト自転車向けドライブユニットや電動バイク向けインホイールモーターを手掛けるほか、新たな事業領域への挑戦として、介護用モビリティやアプリ開発など、既存事業の枠にとらわれず、新しい領域での事業の探索を進めています。また、「トップダウン/部門発/個人・小チーム発」の3つの切り口から新規事業開発を行っており、社内でのアイデア募集や外部との交流機会の創出などを通じて、社内外で新規事業開発に挑戦する機運を醸成しながら取組を進めています。

株式会社エフ・シー・シー/新たな領域への挑戦

エフ・シー・シーの取り組みイメージ

エフ・シー・シーでは、主力であるクラッチ摩擦材等の素材技術と設計製造力を組み合わせた事業の深化、出資や共同研究といった外部連携を推進しています。事業化検討段階ではあるものの、多くの参加者の関心を集めていたのが、ものづくりの現場で培った生産管理体制とAI技術を掛け合わせた「ドウマンガニ」の養殖。モビリティ以外の領域に自社の強みを活用し、サイバーセキュリティやセラミック、水産業をはじめとした幅広い領域に挑戦しながら、スタートアップや大学・研究機関といった外部連携を進めています。

株式会社ユニバンス/海外マーケットへの挑戦

ユニバンスの取り組みイメージ

ユニバンスでは、社内公募による新事業プログラム、外部企業とのオープンイノベーションの2つの面から新規事業の探索を行っています。モビリティの駆動系部品を手掛けてきた技術力を活かした旧車向け部品販売や、カーボンニュートラルを見据えたバイオ燃料開発に加えて、ITソフトウェア・デジタル領域との融合により、次世代を担う事業創出を目指しています。また、オープンイノベーションでは、国内市場の縮小を見据え、海外市場を視野に入れた事業開発にも挑戦しており、現在はタイのスタートアップと連携した新たなサービスの創出にも挑戦しています。

株式会社エンコース/顧客の声を拾い、その先へ

エンコースの取り組みイメージ

エンコースは、ものづくりの現場に欠かせない工作機械を手掛けてきた地元メーカー。アトツギ経営者である石井氏が、国内シェアの変化をきっかけに行ったリブランディングやデザイン性の高いスイッチの開発など、顧客のニーズを丁寧に拾いながら変革を続けています。

新規事業、誰がやる?

新規事業開発の専門部署がある自動車部品メーカー担当者の経歴は様々。営業部から新規事業創出を提案する中で、新規事業担当部署ができ合流する事になった清水氏に対して、木村氏や西山氏はもともと既存商品の企画開発を担当しており、新規事業開発の担当部署ができてから社内人事で担当者として関わり始めたそうです。一方で石井氏は、企業の代表者という立場で、短期的に成果が見えづらい新規事業に関わり、ノウハウを蓄積しながら事業の探索を行う人材を社内で育成することに難しさを感じ、外部人材のアドバイス等を参考にしながら、柔軟に動きやすい自身が新規事業に関わっている、といいます。

堀内氏から、新規事業開発の担当者には「好奇心が強く、積極的に様々なことに手を出せる奇人・変人」が向いているという発言がありましたが、こうした特性を持つ人材を社内で適切に評価し、個性を伸ばして成長できるような環境を整えること、人材育成が難しい場合は、石井氏のように積極的にスキルを持つ外部の人材や組織を利用することが、新規事業開発の第一歩です。

「弱いつながり」の効能

既存事業の深化と新規領域の探索、異なる方向性の活動を並行して進めている各社に共通していたのが、積極的に社外の人や企業とつながろうとする姿勢です。西山氏や石井氏は、展示会で興味を持ったこと・分からないことを片っ端から聞くようにしており、清水氏はタイ現地に頻繁に足を運んで、現地のパートナー探しをしているそうです。また、木村氏からは東京都のイノベーション拠点「TiB」、浜松企業はコワーキングスペース「FUSE」を定期的に利用し、スタートアップを含む様々な企業と関わりを持つようにしている、という声が挙がりました。

ユーザーの声を拾って製品に活かす、というのは既存事業でも大切にされている手法ですが、定石がない新規事業においては、とにかく様々な人に会い、多様な分野の視点や生の声を集めることで、自社が持つ知識やノウハウといった資産を異業種と掛け合わせ、事業化できるようなアイデアを検討していきます。これまでなじみのなかった人や分野との「弱いつながり」から、新しい発見が生まれる、ということを繰り返し、視野や人脈を広げながら事業を形作っていく活動が欠かせません。

小さく生んで、大きく育てる

新規事業開発に失敗や方針転換はつきものとはいえ、限られたリソースをどのくらい投入するか、引き際をどうするかは悩ましいところ。自動車部品メーカー3社では、現状、新規事業開発において明確な撤退基準を設けていない、とのことでしたが、軌道修正のタイミングを見極めて決断するのが難しいからこそ、未知の領域に挑戦する際には、小さな規模で試作・実証を行い徐々に事業の規模を大きくすることが大切だ、というお話がありました。新規事業開発においては、企業規模の大小にかかわらず「エフェクチュエーション」 (※) によるアプローチが必要だということを、改めて感じた場面でした。また、石井氏からは、経営者の目線であらかじめリソース配分を考えておく必要性はありながらも、実行・検証の流れを止めないことの大切さを教えていただきました。

この話題の締めくくりとして、堀内氏からは「製造業は新しい製品を扱う際に設備投資など軌道修正が難しい一方、デジタル領域では、より小さな労力・費用で軌道修正が可能。あらゆる業態においてデジタル化が進む時代の潮流に乗る大きなチャンスでもあるので、外部連携も含めてデジタル領域は製造業も挑戦していくべき分野ではないか」というコメントがありました。

(※)エフェクチュエーション
成功した起業家たちに共通する思考・行動パターンを体系化した論理。不確実・予測困難な状況下で、人脈、知識、道具など手持ちの資源で「今何ができるか」を出発点として行動を起こし、徐々にコントロールが可能な範囲を拡大していく。目標を設定してから手段を考える計画重視の手法であるコーゼーション(Causation)と対比される。

人材配置は既存事業の業績次第?リソース配分のジレンマ

自動車部品メーカー3社においては、電気自動車が急速に普及するという将来予測への危機感が新規事業開発の原動力となっていましたが、現状、予測されていたほど急激な技術転換は起こらず、むしろ既存事業への引き合いが多い状態だそうです。このような状況下では、新規事業開発に配置した人員が既存事業に戻され、人手不足が生じます。一方で既存事業が不調だと、予算が削減され、新規事業を思うように進められない状況になってしまうため、新規事業開発は常に難しいかじ取りを迫られます。「新しい事業を始めて成功させるためには、10年は必要」という堀内氏の発言に対して、参加者からは「それに耐えうる予算や体制を継続して確保することの必要性と難しさを感じた」という意見をいただきました。

会場の様子

「壁」をどう乗り越える?

質疑応答の時間には、新規事業に携わる参加者から「経営陣の理解が得られない、試作前の概念検証(PoC)の時点で承認が取りづらい、売上目標の認識が合わない」といった率直な声が寄せられ、登壇者に各社の状況を聞きながら、対応を考えました。ここでも、全く新しい領域に挑戦する際には、小さな金額・規模感で試して成果を出し、徐々に規模を拡大していく、というプロセスを示すことで、地道に意思決定層の信頼を得ていくのが現実的ではないか、というところに行きつきました。

今回登壇いただいた4社を始めとした新規事業に取り組んでいる企業の多くは、プロジェクトの事業化について道半ばの状態。新規事業の評価が難しいとはいえ、適切な人事評価の仕組みが追いつかないと、新規事業開発に適した好奇心の強い人材は外部流出してしまう、という指摘もありました。新規事業開発においては、通常社内で分業されている企画やマーケティング、設計、営業など、全ての機能が必要となるため、外部人材の活用や他部署との連携など、支援体制の構築が必要です。経営層の理解を大前提として、人事制度など既存の社内の仕組みを再考する必要性について考えさせられる内容でした。

最後に堀内氏が参加者に投げかけた「石井氏から同社の働きかけでJISの規格変更を実現した、という話があったが、新しい技術やサービスを社会に実装する際には、現状に合わせた設計を考えるだけでなく、法律や仕組み自体を変えることも必要ではないか。1社ではできないと感じるなら、仲間を集めて社会そのものを変えていけば良い」という熱いメッセージも、社内外の既存のシステムについて改めて考えるきっかけとなったのではないでしょうか。

セッションや質疑応答の後も、登壇者・参加者の間で個別の課題や関心領域に基づく対話が続きました。今回、定員50人に対して60人超の参加者が集まった会場からは、急速に変わる時代に合わせて、自社も変わらなければいけない、という危機意識を持つ企業が多い一方、適切な人材がいない、進め方がわからない、といった声が多く挙がっており、改めて、同じ地域に根差した企業同士、同じ業界に関わる企業同士、老舗企業とスタートアップなど、他者との連携が、産業や地域社会の変化に対応し、事業者の持続可能性を高めるのではないかと感じました。

登壇者の集合写真
左から、堀内 健后 氏(TECH BEAT Shizuoka プロデューサー)、木村 亮介 氏(ジヤトコ株式会社)、西山 将史 氏(株式会社エフ・シー・シー)、清水 幹元 氏(株式会社ユニバンス)、石井 幹人 氏(株式会社エンコース)

AFTERBURNERを通じて拾い上げた静岡県の産業の課題、イベントを通じた登壇者や参加者との出会いを踏まえて、静岡県内企業の変革・新たな挑戦を支援するためにTECH BEAT Shizuoka が出来ることは何かを改めて考え、次回の「TECH BEAT Shizuoka 2026」に活かしていきたいと思います!